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「……ありがとう。大好き」
向日葵の少女はそう呟くと彼女の目に、水面上で咲き誇る少し枯れた向日葵たちと、その海に溺れていく自分の姿が映った──。
* * *
こんな筈じゃなかった。
私が蹴った石の先にある世界は、思ってたよりも青く光ってた。
彼女は知ってたのかな?
ルツェは向日葵の少女の居る方へ振り向いた。
彼女が海に溺れているのが見える。
──向日葵の少女にしてあげられることをやっと見つけた。
翼を大きく広げて飛び、溺れている彼女のところに舞い降りて引き上げる。
天使としてやることは、このぐらい別にいいだろう?
向日葵の少女が目を覚ますと、雫で出来た海に溺れていた筈なのに体は水面上に浮いていた。頭上を振り向くと、その先にルツェの顔があった。
「おはよ?」
「ごめん……私、眠ってた?」
「いいよ、別に」
向日葵の少女が未だ手に取っていた枯れた向日葵が一輪、砂のように崩れていく。
向日葵のような色をした葉が一枚、彼女たちの視界に飛び込んで来るように舞い降りた。その葉はもう一枚、またもう一枚、あの時に零れ落ちた彼女の雫と同じくらいに幾つも増えて、雫で出来た海はやがて紅葉で満ちていった。あの時とは違い、彼女の顔からは雫じゃなくて、今度は笑顔が零れた。
「……秋が来ちゃったね」
「今年も秋、来ちゃったなぁ」
未だ秋の到来を告げたばかりの紅葉が更にもう一枚、揺らめくように舞い降りた。
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