0人が本棚に入れています
本棚に追加
* * *
紅く染まった紅葉を目にする時は一瞬で過ぎ去っていく。
風に乗って舞い上がり、川に落ちては流れていくように。その時間が夢だったように──
「冬が寒くてほんとに良かった」
と、向日葵の少女は云った。
「どうして? 寒いのに?」
ルツェはきょとんとして首を傾げる。
そこに紅い紅葉はもう無かった。二人は未だ何も書かれてない白紙のページのように辺り真っ白な世界の上に立っていた。
「こうして手を温められるから」
向日葵の少女は不意を突くように、ルツェの冷たい左手を捕まえて握った。敵であれば致命的だが、ルツェにとって彼女は気を許している相手なので抵抗は特にしない。
向日葵の少女はそのまま自分のスカートの右ポケットに、また自分の右手と一緒に招き入れた。
「……こうしたかったの?」
「うん」
向日葵の少女は嬉しそうに笑った。
「ふーん……」
向日葵の少女が何だか嬉しそうでも、ルツェは笑わなかった。彼女にとって笑える理由がそこに無く、分からないからだ。
「あったかいでしょう?」
「……まぁ、そうだね」
向日葵の少女に返した言葉から態度が表れるくらいに、ルツェは面倒臭がり屋である。理由を聞いて知ったとしても、分かろうとはしないことだろう。
「でもよく分からないな、人間の考えることは。……何で嬉しそうなの?」
彼女は人間ではない。文字通りに天使だから、人間である向日葵の少女の考えていることを理解出来ずにいた。
ルツェはその苛立ちによって、向日葵の少女から振り解くように手を離す。同時にスカートの右ポケットから、そして彼女自身から離れようとする。少しずつ、少しずつ──
「あ」
向日葵の少女の口から漏れるように声が出た。ルツェの足元のそれに気付いたからだ。
「……何?」
「枯れてしまっても、向日葵を蹴飛ばさないで」
向日葵の少女が云うように、ルツェの足元には枯れた向日葵があった。
最初のコメントを投稿しよう!