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しかし彼女は面倒臭がり屋なのでそんなことにお構いなしと、更に歩を進めようとしながら、
「どうして──」
ルツェは彼女に言い切る前に、
「積もった雪と共に転んじゃ……あ」
また向日葵の少女が言い切る前に、
「ぎゃふん!」
ルツェは雪の絨毯とキスするように転んだ。
「……大丈夫?」
向日葵の少女は彼女に右手を差し伸べて、起こすのを助けようとする。
「つーーっ、こんな所に枯れた向日葵なんか捨てないでよ!」
雪の絨毯から顔を上げたルツェは、おでこと頬がちょっと赤くなっていて半泣き状態だった。全体的に白い容姿なのでそこに居るということが、ちょっと離れているところからでも分かりそうかもしれないし、そうでないかもしれない。
「捨てちゃいないんだけどね。そこ、花壇だから……。でもまぁ雪がこれだけ積もったら足元が全く分からないよね」
「……大丈夫、自分で立てるから」
僻んでいるのか向日葵の少女の差し伸べた手を拒んで、ルツェは自力で起き上がった。その為、向日葵の少女から笑顔が消え、悲しい表情になった。
次の夏は、綺麗な向日葵が見れなくなりそうなバチが当たるかもしれない。もう遅いかもしれないけど転ぶのは嫌だから、一歩一歩、枯れた向日葵を踏んでしまわない様に気を付けて、雪の絨毯を懸命に進む。
向日葵の少女は何か気になるものを見つけたのか、笑顔を取り戻した。
「あそこまで行こう?」
未だ雪の様に綺麗なままの思い出が消えないようにただ祈って。こんな夢物語は二度と叶わないだろうなと、今の幸せを噛み締めて。
未だこれからの雪だけで無い道を。
二人は作り、歩んでいた。
時間が少し、少しずつ、
止まる事なく進んで行く。
忘れた訳じゃないけど、
良い思い出が一つ、また一つ遠ざかっていく。
「……」
忘れた頃には良い思い出だけが一つ、一つ、
近付いていけたらいいとも願っていた。
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