手紙

1/1
606人が本棚に入れています
本棚に追加
/67ページ

手紙

 俺にはその人のことを考えると心が震え、泣きたくなるほど好きな人がいて、その人は今、俺の隣で優しい寝息をたてている。  さっきまで、あんなに俺を愛してくれていた人だけど、貴方の愛してる人は俺じゃない。  俺は貴方が記憶をなくした事をいいことに、貴方があいつを… 、貴方が薫を誰より愛していた事をなかった事にして、貴方の最愛の人は俺だと信じ込ませたんだ。  はじめは、それでも貴方が欲しかった。  でも、今は?  貴方が俺を愛しい人を見るような瞳で見てくれる度、俺は思い出すんだ。  貴方が薫に向けていた、瞳と優しい視線を…。  貴方の愛しい人は、俺じゃない。 俺じゃないけど、夢見たかったんだ。  一瞬だけでも…  だけど、それも今日で終わりにします。 『神谷(かみたに)先輩    今まで俺は、先輩に嘘をついていました。  先輩が愛した人は俺ではありません。  先輩の隣で息を引き取った、長谷部薫(はせべかおる)です。  先輩が事故と薫を亡くしたショックで、記憶をなくした事を俺は利用して、先輩をずっと騙していました。  先輩はきっと激怒されるでしょうね。  多分それは、薫も同じで…    こんなことで許されるとは思っていませんが、俺は、もう2人の前には現れません。  先輩。  今まで、本当にごめんなさい…          ーー松原(まつばら) (あきら)ーー  』  晶は手紙を封筒に入れ、まだ眠る神谷の枕元にそっと置いた。そして最後に、神谷の少しこしがあり硬い黒髪をそっと撫でると、バックを手に、部屋を後にした。  
/67ページ

最初のコメントを投稿しよう!