避ける ①

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避ける ①

その日から晶は神谷を避けるようになった。 いや、避けるというより、合わせる顔がなかった。 どんな顔して、どんな風に話しかけ、どんな風に接するか… わからない。 毎日、毎日、神谷に会わないように朝早くに家を出て、昼休みは毎回使われていない教室で一人で弁当を食べ、授業が終わった瞬間、逃げるように学校を出た。 これじゃあ、まるで俺が傷つけられた人みたいに振る舞ってる。 違うんだ。 俺が傷つけたんだ。 俺が…… 晶が神谷を避けるようになった直後は、神谷も晶のことを探していたが、それも徐々になくなり、やがて2人は顔を合わせることもなくなった。 「晶、最近神谷先輩と出かけないわね。喧嘩でもしたの?」 日曜、家でゴロゴロしている晶を、心配そうに母親が見た。 「喧嘩っていうか…、先輩受験生だし、そんなに毎週毎週俺となんて遊べないよ」 晶は嘘に嘘を塗り重ねていく。 本当と、嘘と、自分に言い聞かせる言い訳。 もう何が本当で、何が嘘で何が言い訳なのか、わからなくなってきてもいた。  「そう…?ねぇ晶」 「ん?」 「今年の夏休み、やっぱりお爺ちゃんの家にいってらっしゃい。いい気分転換になると思うわよ」 爺ちゃんの家…… ……。 そうすることが一番だ。 先輩にとっても、俺にとっても… 「うん。今年は行くよ」 晶はある事を決めた。
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