2

1/2
前へ
/31ページ
次へ

2

「今日掲示板みた?」 1限目のざわついた教室に、橋本がニヤつきながら入ってきた。 「4限の休講だろ?」 僕の隣に座ってた佐々木が答える。 「休講なんて初めてだよな?他の学科は知らんけど、この学科月-金でみっちり講義入ってるくせに休講しないんだよ。11月になってやっと初休講って何なん?」 ため息混じりで嘆きながら、僕の後ろに座ってた木崎が橋本のために隣の荷物を退けた。 「大学生ってもっと遊べると思ったよなぁ」 そこに腰かけながら橋本がしみじみ言った。 高校三年間を波風立てることなく無難に過ごした僕は、推薦を取って大学生になった。 相変わらずの人見知りだったけど、長年培った笑顔のおかげでたまたま近くに座ったこの三人と友達になることができた。 初登校で緊張していた僕は、ひたすら訊かれたことにニコニコしながら答えていて、なんの話しだったか、流れでなぜか三人と連絡先を交換することに成功した。 ・・・そしてこうして、毎朝講義室で落ち合うのが日課となっている。 「じゃあさ、3限終わったらどっか寄ってくか?」 カバンからテキストやノートを出しながら、橋本が訊いてきた。 今日は最後の4限が休講だから、いつもより早く終わる。だから、みんなで寄り道でもどうか、ということらしい。 その問いに最初に答えたのは木崎だった。 「今日部活だからちょい早いけど部室行くわ。悪ぃ・・・」 ごめんと片手でポーズをとると、佐々木も同じように両手を合わせた。 この二人は揃ってダンスサークルに入っていて、もうすぐある大会で踊るダンスの練習がしたいんだって。 ダンスが踊れるなんて、単純にすごい。僕は完全なインドア派で、運動全般苦手だ。 「雑賀(さいが)はどうする?」 三人の話をいつものように聞いてた僕に橋本が振った。 「橋本は?」 質問に質問で返してしまった。 だけど、この半年あまりで僕の性格を分かってくれたらしいこの友人たちは、そんなことは気にしたりしない。 そして僕の受け答えで、あまり乗り気でないことも察してくれたみたい。 大学にも橋本たちにもだいぶ慣れたけど、まだまだ気を張っているみたいで、出来れば早く帰ってゆっくりしたい。 橋本には申し訳ないけど、二人でお出かけはちょっとまだ無理かな・・・。 「ホントはオレ、レポート終わってなくてさ。みんなが行くならって思ったんだけど、行かないならオレ、図書館行きたいんだよね」 橋本は、こっちから聞いたのにごめんな〜、て逆に謝ってきた。 「僕も今日は買いたいものがあったから、ちょうどよかったよ」 僕の方こそ、ごめん。 気を遣って僕を悪くさせないようにしてくれた橋本に、心の中で謝った。 本当にごめんね。 なかなか上手く人と付き合うことが出来ない僕なのに、この友人たちはやさしく接してくれる。 毎日大学に通えるのも、この三人がいるからだ。 もう違う話題で盛り上がっている三人を、僕はありがたく思いながら見ていた。
/31ページ

最初のコメントを投稿しよう!

588人が本棚に入れています
本棚に追加