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物心着いた時から、一人だった。 一人と言っても家にはお手伝いさんがいたけど、この人は仕事をこなすだけで、子供の僕とは特別馴れ合う気はなかったみたい。 幼い頃こそ朝起きた時から夜寝るまで家にいて、僕の面倒と家事をしてくれてたけど、小学校も高学年になる頃には学校に行っている間に家事と、夕食と次の日の朝食を用意して帰っていくようになった。 だからいつも、僕は作ってある朝食を一人で食べて、学校に行っていた。 帰ってからも、寝るまでずっと一人で過ごした。 そんな生活でも、僕は特に寂しいとは思わなかった。 そもそも、それが寂しいということを知らなかったから。 『普通』の家がどんな風なのか、それを知るのはもっとずっと先だったし、知った時には自分の境遇を理解できていたから。逆にお手伝いさんを入れてくれて有難いと思ったくらいだった。 母は僕が赤ちゃんの時に病気で亡くなったらしい。 なんでも、僕を妊娠して病気が分かり、僕か治療かの選択を迫られて僕をとったらしいのだ。 大恋愛の末に結婚したのに、気の毒にね・・・、と祖父の告別式に集まった、初めて会った親戚に教えてもらった。 それを聞いても特に悲しかった訳ではなかったけど、妙に納得してしまった。 だから父は、僕が嫌いなんだと。 とても愛した人の命を奪って生まれて来た僕。愛せる訳なんて無いよね・・・。 本当に嫌われているかどうかは、実は分からない。 それを判断できるほど、僕は父とは接していなかったから。 朝は僕が起きる前に出ていき、夜は寝てから帰ってくる。 週末も仕事でいないか、いても書斎から出てこない。 とにかく顔を合わせることはほとんどなかったから。 もしかしたら、僕の顔自体が嫌いだったのかもしれない。 僕の顔は母親そっくりなのだ。 歳を重ねる毎に似てきて、中学校に上がる頃には、母の写真を見て自分かと思ったくらい。 だから父は、僕と会おうとしないのかもしれない。 そんな風に思ってから、自分の顔がイヤになった。 父にも見せたくなかった。 だから前髪を伸ばして、大きめのメガネをかけた。 少しでも顔が分からないように。 少しでも母に見えないように・・・。
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