阿修羅☆降臨

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****  冥界が生み出した殺戮兵器『阿修羅』  それは遥か昔、先代の閻魔と神との間に造られた意思を宿す機械人形。  体長はおよそ2メートル、喜怒哀楽を表した4つの顔と100本を超える腕を持つ。  手にはそれぞれ違う形の剣を携えており、一度剣を交えれば、瞬く間に木っ端微塵にされると言われている。  あまりの凶暴さに実用まで至らず、万が一に備えて牢獄の最下層に封印されていたが……。 「まさか脱獄してしまうとは……」    アカドリは殺された獄卒の亡骸を見て顔を顰めた。  周囲は慌ただしく、獄卒達が事態を収集しようと駆け回っている。  そして阿修羅が無理矢理切り裂いたであろう歪んだ冥界門を見て、アカドリは目を細めた。 『私に考えがある』  あの時、阿修羅を捕えようとしたアカドリを何故か閻魔は引き留めた。  そして案の定、阿修羅は三途の川を降って人間界に向かっている。  あと2日も経てば、阿修羅は人間界に降臨し、無差別に人間の命を奪っていくだろう。 「…………」  アカドリは先ほど人間界に送った閻魔印の赤紙を開く。  揺らぐ閻魔印の業火と書き綴られた内容を眺め、アカドリは疲れたようにため息をついた。 「まったく……あの方は一体何をお考えなのだ」 ーーー三途の川・下流にて  白い霧に包まれた薄暗い川の道。  ガシャンッと、水気を含んだ金属の擦れる音が聞こえる。 『……カナシイ……カナシイ……』  そして悲しげな男の声。  その声は篭っており、まるで仮面を被っているようだった。  しかし実際に喋っているのは、喜怒哀楽を表した4つの顔と100本の腕を持つ機械人形。  正面にきているのは"哀"という表情で、とても悲しそうな顔で歩いている。 「おい、何処へ行く。出口はそっちじゃないぞ」    男の声が聞こえたと思うと突然、空中に白い羽根が舞った。  阿修羅が寂しげに空を見上げると、そこには大きな白い翼を持つ美しい天使がいた。  艶のある長い金髪を揺らし、シルキィは無表情のまま小首を傾げる。 「お前が行くべき場所は決まっている。人間界だ」 『ニンゲンカイ……?』 「そうだ」  ゆっくりと川に降り立つと、シルキィは白く透き通った指先で阿修羅の頬を撫でる。  金属に包まれた頬は冷たく硬質で、霧によって僅かに結露していた。  彼は阿修羅の頬を何度も撫でながら、甘い声で囁く。 「お前の力が必要なんだ。そのために私は地獄からお前を解放した」  その言葉に阿修羅はピクリと反応した。  シルキィは青い瞳を残酷に歪めながら、氷のように冷たく微笑む。 「人間界で消して欲しい相手がいる。誰かの命を奪うのは楽しいだろう?阿修羅」 『…………』  すると突然、阿修羅の顔がグルンとスロットのように回転した。  やがてカチリッと歯車が止まる。  正面にきたのは"楽"という表情だった。  阿修羅は愉快に笑い、子どものようにはしゃぎながら声をあげる。   『タノシイ!タノシイ!』  腕を動かしジャラジャラと金属音を響かながら踊った後、阿修羅は覗き込むようにシルキィを見つめた。 『ネエ、ダレコロシテホシイ?』 「…………」  金属で出来た無機質な"目"を睨み、シルキィはゆっくりとその名前を口にした。 「堕天使ミウマ」
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