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ーーーー10分後
魔力が尽きて泣き疲れたコヅチは、砂浜の上で丸まりながら眠ってしまった。
瞼を赤く腫らしながらスヤスヤ眠る彼に、クゲと雅美は安心したように息を吐く。
「やっと終わったァ……」
「……死ぬかと思った」
「ん"ーーー!ん"ーーー!」
彼らの側には、影によって全身ぐるぐる巻きにされたミウマの姿。
顔も影に巻かれて、カレはただ唸ることしかできない。
雅美は持っていた瑠璃響を砂浜に置いて、疲れたように仰向けになった。
クゲはミウマの拘束を解くと、眠ったコヅチの側に近寄って微笑んだ。
「……こりゃ、しばらく起きないなァ」
そう呟いた彼は紫色の空に向かって手を掲げた。
「"時止め解除"」
カチリと時計の針が進む音がした。
クゲの手元に銀色のランプが戻ると、紫色の世界は消えて人間界の時間が進み始める。
紫から澄んだ青空に戻った瞬間、雅美は勢いよく起き上がって周囲を見渡した。
「時間が動いてる……」
「マサヨシーーー!!」
ピョンッとウサギのように跳ねたミウマが雅美に抱きつく。
「さっきはごめんねえ!危うくキミを消炭にするところだった!」
「ちょっ、ミウマ…触んなッ!!」
「ミウマさん、マサヨシくん」
声を掛けられて2人が振り向くと、クゲは人間の姿に戻っていた。
眠るコヅチを担ぎ、鋸歯状の歯を見せて笑う。
「先輩がご迷惑をおかけしました。俺たちは一旦ここで失礼します」
ミウマはニコニコ笑いながらご機嫌に手を振った。
「じゃあねクゲ。コヅチくんと気をつけて地獄に帰るんだよ☆」
「いえ、俺たちはまだ地獄に帰りません」
ピタリとカレの手が止まる。
サングラスに越しに見えた赤い狐目が、雅美の姿を映して弧を描いた。
「忘れましたか?俺たちの任務は"堕天使ミウマを地獄に連れ戻すこと"。このまま地獄に帰れるわけないじゃないですかァ」
「…………」
冷たく睨む青の瞳に、クゲは愛想良く笑って軽く手を振る。
「また今度先輩が元気になったら楽しく闘いましょう」
そう告げるとクゲは大きな影に呑まれて、その場から忽然と姿を消した。
****
海辺に取り残された2人。
ミウマはハッとした顔で雅美に叫ぶ。
「そう言えば、マサヨシ今日学校なんじゃないの!?」
「あ……」
思い出したと声を上げる雅美に、ミウマは慌てて砂浜に術式を書き始めた。
その様子を呆然と見つめていると、彼はある違和感に気づく。
「今ならまだ間に合う!ここからボクの術式で、学校まで転移させられるから……」
「……ミウマ」
「なに!?」
「お前……、右腕動かせねえの?」
雅美は眉を顰めながら、パーカーから見える焦げた右手を見つめた。
「ああ!」
するとミウマは今気づいたとばかりに右手を見て、ニパッと満面の笑みを浮かべた。
「だいじょうぶ!こんなの何ともないよ♡」
「……本当か?」
「もちろん!後で治しておくから雅美は心配せず、学校に行っておいで」
それを聞いて、雅美は最近チンピラから助けてもらった時のことを思い出した。
たしかあの時もカレは男に傷つけられた頬を一瞬で治していた。
「それならいい。俺が家に戻るまでに治しておけよ。……その手見てるとグロくて飯食えないから」
「わかった!」
周りに人がいないことを確認した後、ミウマは素早く術式を展開させて雅美を学校に転移させた。
誰にも気づかれない男子トイレに転移した雅美は、そのまま教室に向かって授業を受ける。
誰もいなくなった砂浜で、ミウマは1人立ち尽くした。
ボロッと砂浜に落ちる黒い煤。
全く動かない焦げた右手を見て、さっき言われた雅美の言葉を思い出す。
『俺が家に戻るまでに治しておけよ。……その手見てるとグロくて飯食えないから』
言葉の裏に隠された雅美なりの"心配"と"優しさ"
それを十分理解しているカレは、青い瞳を溶かして柔らかく笑った。
「……キミは本当に良い人だね」
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