阿修羅☆降臨

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**** ーーー午前11時スーパーONIYASUにて  とあるコーナー前でミウマはゴクリと生唾を飲み込んだ。 「頑張ってミウマちゃん……」  隣からそっと声をかけるのは最近友達になったエアロビクス主婦、金成ヤス子。  2人は生死を賭けるような顔で、台の上に置いてある六角形の木箱をジッと見つめていた。  ミウマは勇気を振り絞り、震える手を伸ばして箱についているレバーを掴んだ。  そしてカッと目を見開き、思い切りレバーを回転させる。 「どりゃあぁぁぁ!!」  グルグルと木箱を回転させながら、カレは祈りを込めた。  お願い!閻魔様、仏様!!  どうかボクに幸運の力をぉぉぉ!!!  コロンッ 「はい、白。参加賞でーす」  ポンッと手渡されたのは、真っ白な格安ポケットティッシュ。 「……………」  ミウマは無言でそれを見つめた後、目線を上げて貼り出されたくじ引きポスターを眺めた。  1番上には、1等賞『高級温泉旅行ペアチケット』がある。 「…………」  キラキラと眩い輝きを放つ1等賞。  目線を下げたミウマは掌に乗ったポケットティッシュを見て、しょぼんとした顔になった。 ポンッ 「ミウマちゃんドンマイ」  カレのしょぼん顔に愛らしさを感じつつ、ヤス子は優しく肩を叩いた。 「諦めちゃダメよ。くじ引きキャンペーンは来週まで。それまでに買い物して3千円以上購入すれば、またリベンジできるわ」 「ヤス子さん……」 「さあ、今度は私の番よ!!こっちは3枚チケットあるんだからどれかしら当たるでしょ!!」  コロッ、コロッ、コロンッ 「はい、白・白・白。参加賞でーす」 「…………」  手渡された3つのポケットティッシュを無言で眺めるヤス子。  今度はミウマが優しく肩を叩いた。 「ヤス子さん、ボクは学んだよ。きっとこのくじ引きはハズレが殆どなんだね」 「……そうねミウマちゃん。結局これはスーパーの戦略ってこと。過度な期待をしても無駄ね」  2人は諦めモードで笑いながら、くじ引きコーナーから離れようと歩き出す。  カランカランカランッ 「おめでとうございまーす!1等賞『高級温泉旅行ペアチケット』です!!」  それを聞いて、2人の動きはピタリと止まった。  ゆっくりと後ろを振り向けば、ヤス子の後ろに並んでいた主婦が1等賞を当てていた。 「「……………」」  その瞬間、なんとも言えない悔しい雰囲気が2人の間に流れた。 ーーーーーー ーーー 「はああ……。今日はツイてなかったなー…」  ヤス子とスーパーONIYASUで別れたミウマは、買い物袋を持ってトボトボと帰り道を歩く。 「おい」  すると後ろから声をかけられた。  最近聞いたことがある声に振り向くと、そこには人間に化けたコヅチの姿があった。   「うわあぁ……」  今、このテンションで1番会いたくないヤツに会ってしまった……    げんなりとした顔を見せるミウマに、コヅチは額に血管を浮き上がらせ目を細めた。 「あ?なんだその顔は。あからさまに嫌な顔しやがって」 「うん、すごく嫌だ。わかる?」 「ハッキリ言うな。地味に傷つくだろーが」 「ええーー……」  面倒くさい鬼だなあ……と思いながら、ミウマは半目でコヅチを見下ろす。  そしてある変化に気づいた。  んんんん?  この前甚平と下駄を履いていたコヅチが、シンプルなポロシャツとズボン、スニーカーに変わっている。  さらによく見てみると、彼は何故かスーパーONIYASUのエプロンをつけていた。 「え"え"ぇぇっ!?」 「な、なんだよ!?」  ミウマの大声にビックリしたコヅチは、身体を仰け反らせて後退する。  そんな彼の右胸には、『研修中』と書かれたバッチが輝いていた。 「嘘だ。コヅチくんってONIYASUで働いてるの……?人間界に来てから、まだ2日くらいしか経ってないのに……!!」 「あーー……これは色々あってだな……アパートに住むための条件……じゃなくて!!」  エプロンを摘んで気まずそうに話すコヅチだったが、何かを思い出したように前のめりでミウマに近づいた。 「そんな事はどーでもいい!!ミウマ、お前今夜空いてるか!?」 「えっ、いきなりデートのお誘い!?ごめん!キミのこと全然タイプじゃない!!」 「ちっげーーよ!変な勘違いすんな!!」  コヅチはズボンのポケットから赤紙を取り出すと、それをミウマに押し付けた。  見覚えのある閻魔印の赤紙に、ミウマは目を丸くさせる。 「閻魔様から新たな任務がきた。これは俺とクゲだけじゃない。ミウマ、お前も含まれてる」 「ボクも?なんで」 「さあな。俺も色々あって内容を見ていない。だが、問題児のお前を巻き込むなら……」  コヅチは深緑の三白眼を鋭くさせる。   「おそらく人間界で"何か"が起こるぞ」 「…………」  その瞬間、周囲の木々が騒めいて2人の間に風が吹き抜ける。  しかしミウマの態度は変わらず、いつものようにニパッと笑みを浮かべた。 「いいよ。人間界で起きる問題なら、なんでも協力してあげる」 「……やけに素直だな」 「だって人間界で起こる問題ってことは、いずれマサヨシの危険に繋がるかもしれないってことでしょ。当然だよ」  相変わらず雅美中心で動くミウマに呆れつつ、コヅチは話を続けた。 「なら、話は早い。今夜10時、ONIYASUに来い。閻魔様と連絡を取り、任務の詳細を聞くぞ」 「はーーい」 「あとこの任務が終わるまで、お前を回収する件は一旦保留だそうだ」 「まあ、そうなるよね。あ"ーーこのまま忘れてくれないかなーー……」 「無理だろ」  コヅチがフンッと鼻で笑うと、遠くからクゲの声が聞こえてきた。 「先輩ーーー!」 「あ、クゲ」  走ってきたクゲも同じく、スーパーONIYASUのエプロンを身に付けていた。  前回と違い、彼は薄茶色のサングラスをかけており、服装もコヅチと同じシンプルなポロシャツとズボンだった。 「そろそろ時間切れです!店長がブチギレそうなので早く戻りますよ!」 「げっ、マジか!!」  店長と聞いてサッと顔を青褪めたコヅチは、慌ててミウマに駆け寄った。 「じゃあ、今夜10時忘れるなよ!!来ねえとお前の家に無理矢理乗り込むから!!」 「はいはーい」 「ミウマさん、また後でェーー!」  その後ものすごい速さでスーパーONIYASUに戻る2人を見送ったミウマは、笑顔のままポツリと呟いた。 「騒がしくなってきたなあ……」
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