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「いえ、そういう事ではなくて」
ぼくが食い下がると女性は不思議そうな、憐れむような表情でぼくを見ながら、続けた。
「あの絵は当画廊のオーナーが描いたものでして。気に入っておられますし、手放さないと思いますよ」
ぼくは女性に礼を言い、外に出た。
オーナーとはあの男性だろうか。彼は彼女の、あの刺青を知っているというのだろうか。アムステルダムで入れた、あの刺青を。あの小さな、天使の羽を。彼女のあの美しい肢体を。
そして彼女もまた。
花のいのちはみじかくて
苦しきことのみ多かれど
風も吹くなり
雲も光るなり
いつの間にか覚えてしまったこの一節を呟きながら、ぼくは独り、歩いていた。歩き続けていた。
空を見上げると、そこに雲間から、天使の梯子が降りていた。
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