ショー・ウインドーの女

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 ぼくは彼女を振り向かせて、唇を合わせた。彼女は逆らわなかった。ぼくの熱と彼女の中の熱が溶け出して、重なりあって、何度も波に浚われ、最後はどこか深いところに堕ちていくような、そんな感覚があった。彼女は素晴らしかった。  気がついた時には夜は明けていて、ぼくだけがベッドに臥せっていた。彼女の姿は見当たらなかった。  ベッドサイドに小さなメモと、万札が三枚、揃えて置かれていた。  端正な文字で、「綺麗だと言ってくれたその言葉だけ、いただきます」と書かれていた。  追伸として、  「ワイシャツは、ちゃんと洗いなさい。」  とあった。  ぼくは目が覚めた後も暫く、ベッドから動けずにいた。彼女の名前だけでも訊いておけばよかったという後悔、そもそも感情にかられて彼女と性交してしまった事に対する後悔がぼくを動けなくしていた。  そして恐ろしいほどの喪失感がぼくを捉えて放さなかった。
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