ショー・ウインドーの女

17/18
前へ
/18ページ
次へ
 車は走り去った。イギリス製の高級車だった。ぼくに買えるようなものではなかった。  ぼくはとぼとぼと二人が立ち去った後の画廊の前まで歩いて来た。飾り窓の中に、小さな絵が展示されていた。  何号というのだろう。とても小さな絵だ。写実的なタッチで、短い髪の女性が描かれていた。背面を描いているので、顔は見えない。白に近い肌色で描かれたするりとした肩と肩の間に、そこだけ紫を深く混ぜたような赤で、羽根が描かれていた。  天使の羽根。同じ図案だった。  場違いは承知で、ぼくは画廊のドアを押した。上品な女性が出迎えてくれた。一瞬値踏みをするような目をされた気がしたけれど、構いはしなかった。  ぼくは表に飾られている絵の事を訊いた。  「あぁ」 画廊の女性はその質問を何度も受けているのか、ほんの少し言葉にうんざりとしたような響きを乗せて、答えた。  「あれはお売りできません」
/18ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加