ショー・ウインドーの女

2/18
前へ
/18ページ
次へ
 ぼくは一度だけ、女性を買った事がある。  買ったという表現が当てはまるのかは疑問なのだけれど、彼女とぼくの間には幾ばくかの金銭の授受が発生したのは確かだった。  それは三年ほど前の秋の初めの事だった。  つき合っていた女の子と別れたのと同時ぐらいに仕事が急激に立て込んで、それで気分が紛れたのまでは良かったのだけれど、ほぼ毎日、終電で帰るような生活を強いられた。  いい加減くたくたになっていたある日、最寄駅までの終電まで逃してしまい、ぼくは終点の新宿駅で放り出された。  たまたま金曜日だった。このまま朝までどこかで飲むか、それともネットカフェででも時間を潰すか。どのみち、独りの週末を過ごすだけなのだった。  ぼくは本来向かうべき方向とは逆の、新宿三丁目方面へとふらふらと歩き始めた。
/18ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加