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建物を支えるがっしりとした支柱の陰に消えたかと思えばまた現れ、すっとまたショー・ウインドーに近づき、時折歩を止めてウインドーの中の高級な品々を見ては、また少し戻り、歩く。そんな動作の繰り返しだった。
一人でダンスを踊っているようにも見えた。
女性はショートカットで、夜目にもよく見える高そうなピアスをしていた。胸元が少し開いた綺麗な色のワンピースを着て、走ったらすぐに転びそうなハイヒールを履いている。
とても素敵なひとだった。
こんな時間に独り歩きなんてあぶないですよ。なんだか惨めな気分になったぼくは、目を合わせないように視線を泳がせながら、口の中でぶつくさと言った。
そばに近づいてくるにつれ、彼女の唇が動いているのが分かった。ぼそぼそと何かを呟いているのだった。
すれ違いざまに、その内容が聞こえた。
花のいのちはみじかくて
苦しきことのみ多かれど
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