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第4話
今日から本格的なレッスンが始まった。
『志賀』と入ったビブスを身に着け、もうすでに講師の目の前に座っているメンバーの後ろに座る。事務所に備え付けられているレッスン室は四方を鏡ばりになっているせいか20人とスタッフさん、それに講師の方が入っても全然広く感じる。
「はい。皆さん初めまして。これからあなた達の主にダンスと演技を担当します。中島と言います。では、早速ですが一人一人自己紹介をお願いします。目の前のあなたからお願いします」
そうやって指名されたのはまだあどけなさが残る少女。
「は、はいッ。埼玉出身中学1年生13歳伊藤早希です。えーっと、よ、よろしくお願いします」
もともと小さい体を緊張でさらに小さくさせながらどうにか言い終えた。早希に周りのメンバーも安堵する。
「早希さん。人前で話すのは恥ずかしいですか」
早希が自己紹介を終え、座ろうとする前に講師の中島が質問した。
「あの・・・その・・」
答えづらそうに早希が返答を渋る。
「いいですか。皆さん、これからあなた達はプロとしてファンの方々の前に出ていくのです
確かに恥ずかしがり屋というのは応援される武器になると思いますし、実際にそれを武器にして活躍されてる方もいます。しかし、少し下品な話にはなりますがそんなあなたにはファンはお金を払ってくれますが、数十名の前でもじもじしているあなたに何が出来ますか?」
「す、すみません・・・」
最年少に関わらず、トップバッターで一人立たされている早希は今にも泣きそうな顔を浮かべている。
「私が言いたいことはこれからプロとして活動していくあなた達には一人一人に自覚と誇りを持ってほしいということです。今まで素人も同然だったから、まだ子供だから、そんなことは勝負の世界では通用しませんからね。では、次の方」
一気に増した緊張感の中、次々に自己紹介をしていく。
度々、指摘されつつもなんとか20人の自己紹介が済んだ。
「では、これから5分後にここでダンスレッスンを行います。準備を終えたらまた集まってください。解散」
中島さんは指示をだした後、スタッフ何名かと教室を出ていった。
「うわ~、怖かったな。ね、志賀さん」
「えっと、はい。結構厳しかったですね」
隣に座っていた貝瀬園花さんが大阪出身らしいイントネーションで話しかけた来た。
「もう、そんなびっくりせんでいいのに」
突然話しかけられて身体が跳ねてしまったの気づかれてしまった。
「うそうそ。全然気にしてへんからね。突然話しかけていまってごめんなさいね」
「私の方こそすみません」
「もう、そんな暗い顔しないでー」
私の肩をポンポンと叩く。
「んじゃ、これからよろしくね」
手を握り、軽く微笑んだ貝瀬さんは準備に向かった。
大阪の人は誰でもあんなにコミュ力が高いのだろうか。19歳と言っていたので私とは大学生と高校生の差があるのにそれを感じさせない貝瀬さんのフランクさに驚きつつも、初っ端の会話で失敗してしまったことで今後の不安が大きくなってしまった。
「皆さん。準備は良いですか?
良いようですね。では、まずはダンスの基礎となる体を作って行きましょう。4列になってください」
こうして始まった最初のダンスレッスン。
「はい。では私と同じような体勢取ってください」
言われた通りに床に寝そべり頭と足を少し上げる。
「このまま30秒キープして」
1秒・・・5秒・・・10秒と姿勢を保ち続けるが。
「う、もうダメ」
「これ、きっつ」
「ギ・・・ブ・・」
半数が20秒経たないうちに姿勢を崩してしまう。
「28、29、はい、30秒」
「やっと、終わった~」
「お腹、痛いぃ」
30秒やり切った人も限界だったようだ。
「はいはい。皆ぜんぜん体幹ないね。最低30秒は余裕でできるようにならないと。じゃ、もう1セット行くよ」
「もう1セット?!私もう無理だよー」
「もう足上がらへんで」
2セットは私以外30秒やり切った人はいなかった。
「はい30秒。みんなだらしないよ。3分休んでもう2セット行くからね」
講師の言葉に何人か小さな悲鳴を上げる。
「景さんって何かスポーツとかされてたんですか?」
「難波加耶・・・ちゃんだったよね。な、何もしたことないよ」
中学3年生、年下のはずなのに自慢のコミュ障っぷりを発揮してしまった。
「でもさっきのトレーニング余裕そうでしたよね」
「それは・・・ちょっとダンスはしてたからさ。独学だけど」
「独学でですか!すごいですね」
「いや、そうでもないよ」
「じゃあ、3分経ったから3セット目行くよー。はい、スタート」
話しているうちに3分経ったようだ。元の姿勢に戻って体幹トレーニングを続ける。
このトレーニングをやるのは実は初めてではない。アイドルに憧れてダンスをしていくうちに、よりクオリティを求めるために自分で調べたトレーニングの一つだった。
それにしても年下とも、まともに話せないなんて思わなかった。多分、あの後トレーニングが再開しなかったら無言の時間が続いていただろう。
あー、駄目だ。頭を振ってそんな雑念を振り払い目の前のトレーニングに集中した。
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