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プロローグ
ピコン。
机に置かれたスマホが着信を知らせる音を鳴らす。
ロック画面の通知欄には送信されたSNSとその送り主である「岸上 一美」と表示されている。表示された通知に軽く触れ、メッセージの内容を確認する。
「カゲちゃん、これ懐かしくない?!」
文字だけでも元気そうなのが伝わってくる。15年の付き合いなだけに顔を合わせずとも相手の様子が目に浮かんでしまう。
先ほどのメッセージともに送られてきた動画を再生すると、アイドルだった時の映像が流れてきた。
「もう、この時からどれくらい経ったのかな。それにしてもカゲちゃん全然変わらないよね~。ほんと、うらやましいな」、と一緒に可愛いクマが悔しがってるスタンプが送られてきた。
「一美だって、今はもっと綺麗になってるじゃない」
「もう、カゲちゃんったら。お世辞でも照れちゃうよ
あ、そうだ。来月ね、一期のメンバーで集まろうってなってるんだけど、大丈夫?」
「うん。特に予定もないし、大丈夫だよ」
「そっか!よかった!じゃあ、また詳しい日時は連絡するね。バイバイっ」
「ばいばい」
最後、そう返信して読まれたことを確認してスマホを元の位置に戻した。
欲を言えば、もっと一美と連絡していたかったが、一美は売れっ子のタレントとして活躍中。
こうして、たまに連絡が来るだけでも十分嬉しい。
親友の忙しさに誇らしく思いつつも、どこか寂しさを覚えてしまう。
淹れておいた珈琲の香りと一人暮らしのこの部屋がその気持ちをさらに助長する。
砂糖が入っていない珈琲を一口。
「苦っ」
いつも通り淹れたはずなのに、普段よりもちょっぴり苦く感じた。
(それにしても、卒業してからもう5年か。)
あの頃のことは今でも、どんな記録媒体よりも鮮明に思い出せる。
何度も泣いて。何度も悩んで。何度も何度も苦しんだ。でも、それすらも楽しかったと思える。あっという間に覚めてしまった夢のような時間に、時々、励ましてもらう。
過去に戻れるなら、私はたぶん戻ってしまうだろう。
叶わない願いを口に含んだ珈琲と共に胃に流し込む。
カーテンの隙間から朝の気持ちいい光が射している。
カーテンを開けると外には生まれたばかりの太陽が昇っている。
まるで、暗い私をあざ笑っているようなそれに両手を限界まで挙げ、大きく背伸びした。
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