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患者さんは兄妹
「はじめまして、俺はデーモンナイトのナギリだ、でこっちが……」
入口に行こうとした私が止めて数十秒、診察室の中にやってきたのは頭に二本の立派な黒い角を付けている背の高い男性と片方だけ伸び、もう片方はその半分の角をしているウリネのような少女だった。
「よく来たね、歓迎ですよ、ナギリ、そしてキナ」
「おいおい、ここはウリネの家じゃなくてそっちの先生様の家だろ?」
先ほどまで泣いていたはずのウリネはまるで泣いていなかったかのような満面の笑みで二人を歓迎していた。
それに微笑んだ後、二人に目線を向ける。
するとナギリと呼ばれた男性は直ぐに視線に気づき、微笑む。
しかしキナと呼ばれた少女はナギリの後ろに隠れて少しだけ顔を覗かせていた。
「先生、悪い……他人と話すのが苦手で……」
「大丈夫、お姉ちゃんはぁこわぁい人じゃないよぉー! ほらぁ!」
良く病院嫌いで直ぐに泣く小さな子を笑顔にするための手段の一つ。
ポケットに入っていた元の世界の飴玉。
それを渡すためにまず笑顔で相手の視線を誘導。
そしてその隙に反対の手に持ち替えて、まるでどこからか出したように見せることで魔法のようなことをしたように見せ喜ばせる。
と言ってもこれは一対一でしか効果はなく保護者には直ぐにバレてしまうのだけど……。
しかしその子は嬉しそうな笑みを浮かべる小走りで駆け寄り私の手にあった飴玉が包まれた袋を取る。
「それねぇ、美味しいんだよぉ? 舐めてみるぅ?」
「いいの?! やったぁ!」
笑顔を浮かべて喜ぶ少女キナさんを横目で見て一瞬だけ微笑んだナギリさんは直ぐに真剣な顔に戻り私に言う。
「さっき言いかけて、そして今になって申し訳ない、そいつは妹のキナ、デーモンマジシャンだ」
と言われても頭に角があって肌が若干黒いぐらいしか……わからない。
まぁ、ナイトだ、マジシャンだと言っているだけあって腰と背には武器みたいな物がある。
それを見て異世界に……来たんだなぁって自覚するようになってきた。
「デーモン、カオリの世界で言うところの悪魔で、わかりやすく説明するなら悪魔剣士と悪魔魔法師、こんな感じかしらね」
二人には聴こえない小さな声でウリネは私に説明してくれた。
「お二人はウリネの知り合い? なんですねぇ?」
「ん、ああそうだな、こいつが悪魔の里を訪れるようになってから話すようになって、って感じだな、まぁそれは追々話すとして……今は先生に妹を頼みたい」
「妹さん、キナさんを? この角をぉ? でもこれ以外に外傷はないように見えるんだけどぉ……ねぇ?」
笑顔でキナさんの頭を撫でる私を見て兄であるナギリさんはウリネの顔を一度見て互いに頷いた後、ナギリさんは私の顔を真剣に見つめて言った。
「妹、キナは…………病気なんだ」
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