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プロローグ:とんでもない男難の相
私、津倉菜々はその日、ルンルン気分で歩いていた。先ほど、『トヨトミエージェント』から内定の連絡が来たのだ。
『トヨトミエージェント』は、IT関係広告会社大手。もちろん給料もいい。私にとっては12番目の候補だったが、普通の人なら1番目の候補にしただろう会社だ。
12社目に受けたそこに受かったなんて、正直、奇跡だ。ちょうど内定の連絡を受けたのは、運送仕分けのバイトが終わったころだった。
あぁ、これで私の人生安泰。今より『いい』賃貸に引っ越すことができる。今のところだって、家賃9万1DKの『いい』物件だったが、本当は家賃18万の1Kで狙っていたもっと『いい』物件があるのだ。
ちなみに私の言っている『いい』賃貸とは、駅チカやキレイという点で評価しているのではない。間違いなくセキュリティ面だ。コンシェルジュと言う名の強靭な管理人が、24時間管理しているそのマンション。一度こっそり見に行ったら、ムッキムキのバッキバキの男だった。しかもその男は自分の肉体にしか興味がない。あのムキムキマンのおかげで、人生設計、完璧になった。さらに他の賃貸部分ももちろん高額だし、上層階はもっと高額物件で、ほとんどが分譲というのもポイントが高い。
ふふふ、とほくそ笑んで、できるだけ人通りの多い道を通って帰宅する途中、道の端で黒いシーツをかけられた机が目に入った。その上にはぼんやりと明かりの灯る『恋愛・結婚占い』と書かれた看板。黒いローブを着た老婆がそこに座っていた。
―――珍しいな、こんな大通りで…。
思わずそちらにちらりと目を向けて通り過ぎる。
すると、
「とんでもない男難の相が出ています」
とそこに座っていた老婆は言った。
振り返ると老婆が私の方をまっすぐ見ていた。老婆の目は真実を語る目。私は、思わず足を止める。
「ダンナ? …私、結婚してませんけど。結婚なんかしたくもないし」
「男難の相! しかも強烈です…あなたは変な男ばかり呼び込むようですね。心当たりはありませんか」
そう言われて、キュ、と唇を噛んだ。最近すっかり落ち着いているが…。
「……急いでますので。変なツボならいりません!」
「あぁ、ちょっと! このままではあなた、これからもっと苦労しますよ…!」
老婆が止めるのも聞かず私は歩き出す。
―――心当たり? あるわよ! ありすぎるわよ! そんなこと言われなくても知ってます!!
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