2章:逃げきれない理由

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なんだか、朝から疲れたし、昼も疲れた。それもこれもあの内面変態副社長のせいだ、と思いながら、私は帰路につこうと、会社の1階ホールを歩いていた。その時、また、見えてはいけないものが目に入る。 「…どうされたんですか」 そう、それは諸悪の根源。豊臣純副社長、その人だ。 副社長はさらりと、 「ん? 一緒に帰ろうかと思って。どうせ帰り道、一緒でしょう」 と笑う。 ―――なぜ絡んでくる! 何がおもしろいのか、その顔から今、不思議と思考が読み取れない。っていうかそれどころじゃない! 私は思わず副社長の手首を掴んで、ずんずんと歩き出す。 「こっちきてください!」 副社長はそのまま柱の陰についてきた。 そこまで来た時、私は思わず、 「何考えてんですか!」 と叫ぶ。私が心底怒っているにもかかわらず、副社長は、 「やっぱりそうだ」 と笑った。 「え?」 「総務ではおとなしく地味にやってるみたいだけど、そっちの方がいいと思うよ?」 おとなしくやってるってなんでわかった! というか副社長にそれ、絶対関係ない。 「いいんです! そのままで! どうせ私は性格も見た目も悪いんです!」 私は言う。 「そんなこと言ってないでしょ」 (この子、自己肯定感、低いなぁ) 私は思わず副社長をぎろりとにらんだ。自己肯定感って何。私はそんなの一度も持ったことない。あんたたち変態のせいで。なのに副社長はそんなことも気にせず続ける。 「そういえば、真も心配していたよ」 「へ」 「やっぱりブラジャーのサイズ合ってないって」 「あほか! あの弟! セクハラ専務、最低!」 ―――もう! 最低! 何この兄弟! 私が涙目になっているというのに、ははは、と副社長は笑う。何が楽しいんだ! そして副社長は言った。 「気にしてるんだよ。あいつ、もともと下着会社にいたからね」 「え?」 「エチュールってとこ」 「あ…知ってます」 もちろん知ってる。かわいい下着ばかりでいつも眺めてた。いつか、私もあんな下着付けてみたい。でも絶対無理な話なんだけど…。 「そうだよね。結構有名だもんね」 副社長は言う。 「それがどうして、この会社に…って、社長のご子息でしたよね」 聞いたところによると、この双子セクハラ兄弟は、社長の息子なのだ。そういうと、副社長は突然、おとなしくなって、 「…うん、そうだね」 (真は下着のデザイン、大好きだったのにな。夢を持ってるやつにとって、大会社のご子息なんて、いいことのほうが少ないんだ) と言ったのだった。 「…」 ―――あぁ、聞かなきゃよかった。 別に、変態の意外な過去なんかにほだされたいわけじゃない。私は自分の手をぎゅっと握る。
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