2章:逃げきれない理由

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「っていうか、もうこうやって、私のとこにやってこないでください」 「なんで? ご近所さんなのに?」 「なんでって…」 「理由言えないでしょ。いいじゃん」 (僕は楽しいし) そう言って副社長は笑う。 なんだろう、この副社長。何が楽しいのよ…。こんな人間には、もう関わりたくない。 そう思ったとき、 「副社長ぅ~!」 とかわいい声がして、振り向くと、そこには姫野さんが走ってきていた。走り方もかわいい。 「ほら、彼女がやってきましたよ」 ―――あなたの好きなMっ子が。 私は思わず心の中で毒を吐く。なのに、副社長は先ほどまで見せていた楽しそうな笑顔を、ふっと凍り付かせたと思ったら、 「なに? 姫野さん」 と聞いたこともないくらい冷たい声で言う。…え。なにこれ、声が冷たい。あなたたち一応、昨日、あれやこれや好きなことしたんでしょうに…。 その様子に姫野さんも驚いて足を引く。 「え…あ、あのぅ、一緒に帰りませんか」 「君と僕に何か特別な関係があった?」 「っ!」 姫野さんが言葉に詰まる。っていうか、付き合うとかそういうわけじゃなく、そういうことしたの!? こわい、こわすぎる! おとなって最低! しかし、姫野さんはそんな副社長に負けじと、 「じゃ、じゃあ、津倉さんは副社長と何か関係あるんですか!」 と言い出した。 ―――急になんで私を巻き込んだ!? 驚く私をしり目に、副社長は、 「うーん」 (あぁ、めんどくさいタイプの子だったか。失敗した) と言う。 ―――おい、お前。中身もやっぱり最低な人間だな! そう思った瞬間、私の手が引かれて、副社長にすっぽりと抱きしめられた。 「ごめんね、今、津倉さんに夢中なんだ」 「えぇえええええええ!」 「ひぃいいいいいいい!」 順に、姫野さん、私。 ってか、何言いだした!? 上を向いてみたが、ちょうど抱きしめられて表情が見えない! こいつ、マジ何考えてんだ! 「『なにそれ。ひどい! なんでこんな子っ』」 姫野さんは、驚きすぎて、心の声がそのまま出ちゃってる。わかる、わかるよ、その気持ち…! なのに副社長は、本当に怒ったように、 「好きな人のこと、悪く言われるのは、腹が立つよ」 と言ったのだった。 ―――おい! いつそうなった! どこでそうなった! 私がその拘束から逃れようとぞもぞとしている間に、姫野さんは耐え切れずその場を走り去った。
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