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二人きりになった時、ふいに腕が緩んだ。私はすぐにそこを脱出すると、
「何言ってんだ!」
と叫ぶ。副社長は笑った。
「口が悪いよ、津倉さん」
「ふざけんな! 何考えてんの! ただでさえも変態ホイホイ体質なのに! これ以上、女子にまで嫌われたら生きていけない…!」
もう泣きそう。ってか泣いてる。だから思考がおかしかったのだろう。
副社長は、突然、ぶっ、と吹き出したと思ったら、笑いだしそうなのをこらえて
「…その、『変態ホイホイ体質』って何…!」
(変態が寄ってくるの!? 本当ならおもしろすぎる!)
と言った。
「あなたには…関係あるけどありません!」
ってか、おもしろくなんてない! 実際、副社長もよってきてるじゃん! 自分で実証してるじゃん! そう思って、私は泣きながら歩き出す。
「ちょっと待ってよ」
「誰が待つか!」
そう告げて走り出した。
私は、車が通れないような細い道を走って帰る。足には自信があった。走る練習も幾度となくしたから。そして、マンションにやっと着いたとき、玄関ホールの高級椅子で座って待っていた男を見て思い出した。
―――そうだ…。いくら逃げたって、マンション一緒だったんだ、と。
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