3章:ゲーム

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その時、副社長は、ぽんと手を叩く。 「そうだ。もし、君が、僕の今日食べた昼ご飯を言い当てられたら、金輪際まとわりつかないっていうのはどう?」 「え?」 ―――急に何言いだした? 「『ねぇ。どうかな?』」 顔を見てみるも、副社長の心の中の声も同じ…。 「なにそれ」 「ただのゲームだよ」 「そんなゲーム、私はまったく楽しくないですケド」 「いいじゃん。きみに損はないしね。当たればまとわりつかれない。当たらなくても、現状維持じゃん」 それは維持してほしくないが…。そうは思うのだけれど、しなければ間違いなくこのままずっとまとわりつかれそうだったので、思わず小さく頷いた。 「…わかりました」 不安要素を天秤にかけて…とりあえずこの副社長に寄ってこられないことが大事だと判断した。だって昼ごはんなら…食べてるとこ見たって言って押し切れるような気がするの。 すると、副社長は楽しそうに笑い、 「じゃあ、あててみて?」 と言った。私は思わずその顔をじっと見る。顔隠されたらわかんなかったよなぁ。よかった。 (今日は久しぶりにビーフシチューだったなぁ、正永堂の) そんな副社長の心の声が聞こえて、私はにやりと笑う。 正永堂は会社ビル横のおしゃれなレストランだが全体的に高級で、特に一番お高いビーフシチューが絶品らしい。社内報でも、副社長はたしかそこのビーフシチューが好きって書いていた。好きなものがそんな高いものだなんて、ハラが立ったから覚えていたのだ。順当に考えてそこで食べたのは間違いないだろう。 「私、実は見てたんです」 私は口を開いた。 「今日、副社長が正永堂にはいってくとこ。だから正永堂のビーフシチューじゃないですか? 騙されましたね」 にやりと笑う。副社長が驚いた顔でこちらを見ていた。 「…」 (まさか…) その心の声に気分を良くして私はさらにニヤける。これで私の人生安泰…。 そう思ったとたん、 「ふふふ。あはははは!」 副社長は笑いだした。 あてられて頭おかしくなった? 私は思わず副社長の顔を見る。副社長は私の目を見ると、 「やっぱりね」 (こうやれば騙されるんだ) と言う。 ―――コウヤレバダマサレル? どういうこと…。私は言葉に詰まった。 「今日の昼、僕が食べたのは、会社の食堂のAランチ。証言者もたくさんいるよ?」 「え…」 そう言って副社長は本当に楽しそうに笑いながら、スマホを取り出して今日の写真を私に見せる。 「あ、一応、これ今日のランチの写真。こんなこともあろうかと撮っておいた」 ―――なに、これ。いったいどういうこと? 副社長は確かに正永堂のビーフシチューを食べたって心の中で言った…。 「一体きみは、どこで、僕を見たのかなぁ?」 (やっぱり、きみは心が読めるんだ) 「っ!」 言葉に詰まった。なんで…どうして。 「全部ちがーう!!!!!!」 私は思わず叫ぶと走り出した。エレベータがまだ一階に来ていないのを横目で確認しながら、マンションの階段部分から2階の自室へ走る。 ―――どうしよう、なんで? 意味わかんない! やだやだやだやだやだやだ! ぜんぶやだ!  私は部屋に飛び込むと鍵とロックをかけ、布団の中に丸まった。今まで感じたことのない恐怖。副社長の言っている意味も分かりたくなくて、本当にどうしたらいいかわからずに混乱を極めていた。
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