1章:ファーストコンタクト

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1章:ファーストコンタクト

小学校のとき、幾度となく露出狂に遭遇した。これが普通なのかと思い始めていたころ、クラスのみんなはそんなものに遭遇したことがないことがわかって驚いた。 高学年、クラスで一番苦手な男子に告白された。断ったら次の日からその男子を含む一味からいじめられた。その時、担任の先生が助けてくれた。いい先生だと思ったら体操服姿の写真を撮らせてほしいと言われた。 絶対共学は無理だと思って、見た目も派手じゃない、制服もダサいキリスト教系の女子中高に入った。学校は先生もシスターで女性ばかり。でも、そこでも、通学時間に痴漢に遭ったり、バイト先の先輩だった男にストーカーされたり、もう散々だった。 やっぱりそのころも、歩けば露出狂に出くわした。犬も歩けば棒に当たる、ではなく、『菜々が歩けば露出狂に当たる』という具合だった。 空手を習い、護身術を習い、剣道を習い…どんどん自衛方法だけは身につけてきた。柔道に至っては、いつのまにか黒帯の実力だ。 黒縁のださい眼鏡をかけて、髪を黒いまま保って短くして、化粧っ気もない女に成長した。スカートなんて絶対履かない。靴もスニーカー一択だ。ブラジャーは小さいのを無理やりつけて、勝手に成長する胸を押さえつけた。 大学はもちろん系列の女子大へ進学。犯罪心理学と心理学を必死に学んで、少しでも犯罪者や変態に近づかずに過ごす手立てを考えた。 ―――しかし、あまりにも真剣に学びすぎて、ある日、私はあることに気が付いた。  あの道を歩く男も、バイト先の店長も、テレビの中で微笑む芸能人さえ、顔さえ見れば、思っていることが手に取るように分かるのだ。目線、話し方、声のトーン、全部が私に教えた。『私は(僕は)こう思っていますよ』と。  これは、読心術、というらしい。ちなみに、超能力ではない。顔を見なければわからないという難点もある。 しかし、私の場合、読める心が普通の読心術より鮮明で、もしかしたら多少超能力じみているかもしれない。きっと、私の境遇を不憫に思った神様が力を与えてくれたのかもしれないと思うことにした。 この能力は、本当に私の役に立った。  危ない人間は一目見ればわかる。避けるようにして生きていける。私は人生でこんなに変態に遭遇しない数か月を送ったことは無い、というくらいだった。当然、毎日スキップで過ごした。 そして非常にいいタイミングでの就活。 私は必死に会社訪問に明け暮れた。間違いなく、変態の少なくて給料のいい会社を選別するためだ。そして私は完璧な一つの会社にたどり着いた。『織田ホールディング』という会社だ。大きくて給料も良くて変態が少ない! なんといっても清廉潔白な織田社長はポイントが高かった。ここなら! と思って、受けたのだが、見事に落ちた。あれ? と思って、何社か変態が少ない順に受けたのだが、落ちるばかり。 そうだ、就職難だったのだ…。 犯罪心理学に長けた女子は世間の一般企業では、お呼びではないらしい。といって、法律関係に進むつもりは全くなかった。法律関係なんて、間違いなく、変態に関わることが多いだろうから。  そして私は、候補12社目に就職することとなる。 12社目は、『トヨトミエージェント』。大手広告代理店だ。 そこが給料はいいというのに12社目という候補になったのは、副社長と専務の双子若手ツートップが、明らかに変態だったからだ。それでもそこを受けた理由は、給料がいいことと、会社規模が1000人を超えていたので、副社長と専務であれば、接触は少ないと踏んだ。 ――― は ず だ っ た。 就職し、半年がたったころ、私は後悔することとなる。平和ボケしてたけど、私自身が『変態ホイホイ』だった! ということを忘れていたのだ…。 あの時の老婆の忠告は、確かに真実を語っていた。気づいたのは、例のセキュリティ最強賃貸に高額の諸費用を払って引っ越した後のこと…。
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