1章:ファーストコンタクト

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就職してすぐはバタバタとしていたこともあり、私が飲み会の場が苦手だと告げていたこともあって、大人数の飲み会などに参加させられることは無かった。 さらに、無理に誘おうとしてきても、私は心が読めるので、先に察知して、『今日は母が来るんです』『今日は父がー』と繰り返せば、誘おうとしていたほうも萎えるらしい。 ―――やっぱり、人の心が読めると超便利! そう思っていたのだが、半年がたつ頃、総務課直属の女性上司・皆川英子課長に少人数だから行こう、と誘われたのだ、皆川課長の心中では (一度くらい一緒に飲みに行けたらなぁ。なかなか、うまくいかないなぁ) などとホトホト困惑されていたからには、断れなかった。そして、実際、皆川課長の心の中では、本当に少人数の予定だったのだ。 しかし… 「……これは一体どういう事でしょうか」 少し参加場所に遅れて到着した私は、現状を見てつぶやいた。 皆川課長と新人の私、そして同期の東ゆかりの3名での飲み会だったはずが、どうも、そこに、会いたくない人たちが鎮座していた。 「それがたまたま店にいてね? 新人歓迎会ならぜひ一緒にって…」 そこにいたのは、秘書課課長、秘書課に配属された同期2名、そして、なぜか、トヨトミエージェント副社長・豊臣純、そして専務・豊臣真だった。イケメン兄弟、ハイスペック男子。すべての女子の夢と憧れ、男子の羨望と嫉妬を集めて出来上がっているような男たち。 弟の真は黒髪に短髪、ガタイもよくて、目元もきりっとしている。身長も180オーバーと長身だ。それに、大型犬のような人懐こい性格で、時々さらっとセクハラ発言を繰り出すが、それにやらしさがないらしく、年上にモテる。 対して兄の純は、弟とは少し違う優し気な顔立ちで、品行方正・冷静沈着、物腰が柔らかく、優しい。眼鏡男子好きにはたまらないかっこよさで、普段から年下女子が群がっている。あまり似ていないが超絶イケメンの二人は二卵性らしい。 私は二人を見て、クラリとした。もちろん、イケメンの顔面にやられたわけではない。どうしよう。めまいがする…。絶対に関わっちゃいけない二人だ! 二人合わせて『純真』ペア、なんて言われているが、確実に名前と中身が正反対の二人なのだ。親も名前付け、間違いましたね! と思わない日はない。名前も含めて、まったくもって不愉快だ。時々、書類で名前を見るたび、その名前を黒く塗りつぶしたい衝動に駆られる。 「ほんとにたまたまですか?」 私は眉を寄せる。すると、皆川課長が頷く。その顔と声は本当のことだと物語っていた。というか、皆川課長のテンションが豊臣弟を見て、急に上がった。見るからにわかった。課長は弟の真専務が好きなようだ。本人がいいなら…まぁ、いいのだけど。私には絶対関わらないでくれよ、と心の中で告げて、皆川課長の隣の席(そして端)を陣取り、席に着いた。
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