1章:ファーストコンタクト

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乾杯、とグラスの合わさる音。私は、やけっぱちでぐびぐび、とビールを喉に流し込む。 実際、お酒を飲むのことは好きなのだ。しかし、お酒の場と、セクハラの場はイコールになることが多い。そのため、私はお酒の場にも顔は出したいけど出せない。私のこれまでの人生は『我慢』の連続だ。このような変態たちのせいで…。 私は思わず斜め前にいた変態、こと専務の真をぎりぎりと睨んだ。と思ったら、くる、と真はこちらに目をやる。慌てて、目をそらす。なのに話しかけてきた。 「津倉さん、その眼鏡、ダテ?」 (その眼鏡、ダテ?) 「いや、本物です。目が悪いので」 「そっか」 (そっか) あれ? この変態、心の中と出してる声が同じ…。 私は思わず驚いた。 だって、これまで、そういう変態は少なかったから。 イコールになっている変態と言えば露出狂くらいか…そう思って頭を振る。いつのまにか私の頭の中は変態図鑑と化している。 そのとき、見たくはなかったのだが、視界の端に、兄の純が目に入る。高そうなスーツが、まぁ、嫌みなほどよくよく似合っている。かっこいい。間違いなく見た目は、いい。どこぞの国の王子様のようだ。さらに彼は本当に『見た目だけは』冷静沈着な完璧な王子様。…しかし、心の中は有害この上ない。 ちょうど前に座っているどこぞのお嬢様だという秘書課新人・姫野真美に狙い定めているようで、優しく微笑むマスクの下で (今夜は、いろいろと教えがいがありそうなこの子だな) と心の中で、きりっと決めていらっしゃる。その内容は非常に残念だ。一体、何を教える気だろう…。 そして、非常に残念なことに、いや、むしろいいことなのかもしれないが、狙っている相手の姫野真美22歳は、純朴そうな顔立ちからは想像できないほど超Mっけがあるようで、 (副社長に持ち帰られて、めちゃくちゃにされたい!) と意気込んでいらっしゃった…。 美男美女・SとMのカップル、ここに成立。スバラシイ。非常にスバラシイ。世の中は需要と供給でできているらしい。 ―――あぁ、そうか…職場の人ばかりに気を取られていたが、新入社員ではこういう変態気質もいるかもしれないんだよね。今回は女性で私には無害だけど…。 はぁとため息をつく。そのとき、となりにいた皆川課長のうっとりした顔をつい見てしまう。 (はぁ…もう、今日も真専務が超絶カッコイイ! 今度、兄とのカップリング本を出そう!) あれ? こちらはちょっと思っていたのとは違うナ…。 今まで仕事の場では完璧にそんな考えを出さなかったのだが…というか兄とのカップリングってなんだ!? 課長が専務のこと好きなんじゃなかったの!? そう思って、思わず課長を見たが、課長はご機嫌で飲み進めていて、もちろん表情にはみじんもそんなものを感じさせなかった。思わずため息をつく。
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