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私は顔を上げると、隣にいる課長に声をかけることを決めた。
「皆川課長」
「なぁに?」
「私、少し気分が悪いので、お手洗い行ってきます」
そう伏線を張って、お手洗いに向かった。皆川課長には申し訳ないが、エマージェンシーだ。もう限界。変態さん、特にあの純真兄弟の思考など、読み続けたくない。私は先に頭を冷やしにトイレに入り、少ししてからトイレを出た。
すると、そこに弟・真が立っていたのだ。そして、言葉と気持ちが一緒に聞こえてくる。
「『ねぇ、ずっと気になってたんだけどさ』」
二重に聞こえてちょっと気持ち悪い。こういうことはあまりないから、声に酔いそう…。
そう思った瞬間、
「『それ、ブラジャー。サイズあってないよねぇ』」
と言われる。一気に冷めた。酔いもさめた。完全にセクハラ発言だ。しかも、私に直接、そんな発言ぶつけるな! あんたたちと違って、私は完全に純真、乙女なのだ。残念ながら、変態たちのせいで、知識だけは豊富だが。
―――はぁ!?
そう思ったのだけど、専務のセクハラ発言は続く。
「『よかったら一緒に買いに行こうよ! ついでに、サイズも正確に計ってあげる!』」
―――アホかぁあああ!
私は思わず言いそうになって、口を閉じる。だめだ。これ以上、変な奴だと思われるのも嫌だし、興味も持たれたくない。私は、完全に、『愛想笑いです!』という顔を作って、
「ふふ、ご冗談を」
と言うと、歩き出した。
「『あぁ、待ってよぅ! なんで怒ってんの?』」
―――わかんないなら、ついてくんじゃねぇ!
ニュータイプの天然変態野郎なんて、絶対にお断りだ。
私が思わず走ろうとしたとき、
「嫌がってるからやめてあげな。新入社員に手、出しちゃダメだよ。セクハラ案件だ」
と声がした。
どうやら、兄・純が助け船を出してくれた…らしい。しかし、これは私にとって助け船などではない。兄の純はこれから姫野さんにいろいろしようと思いめぐらしていたようで、その思考にあてられて震える。脳内が完全に18禁案件。
「ドウモ…タスカリ、マシタ」
私はくるりと身をひるがえす。どうしよう、死んでしまう…。この二人といたら、死んでしまう…。息が苦しい。キモチワルイ。吐きそう…。
「顔色悪いけど、大丈夫?」
純副社長の手が私の肩に触れる。
「触らないで! 女を弄りまくってる手なんて、汚いから!」
『汚いからー、汚いからー、汚いからー…!』
あまりの大声に、店内に私の声がこだました。
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