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「ぐっ! ははは! なにそれ! 純がぁ!? 女、弄るって! はははは! ないない! 俺じゃないんだから。それは、ないよ!」
げらげらげら、と弟・真が笑う。息も絶え絶え、苦しそうだ。
彼は完全に兄の性癖を知らないらしい。え、弟も知らないの? めっちゃ仲良さそうだけど。っていうか、弟にすらそんなこと知られてなくて、怖い。すっごい怖い。どれだけ隠すのうまいんだ…。残念ながら、私には丸わかりだけど。
だけどもう一つ分かっていたのは、この手のタイプは絶対に敵に回してはいけない。
たとえば被害に遭っても、間違いなく周りは信じてくれないのだ。一番近づいてはいけないのは、兄・豊臣純と言うことが分かった。まぁ、もう絶対に近づかないと思うけど。とりあえず、よく覚えておこう。
副社長と目が合うと、副社長はにこりと笑った。
「びっくりさせたかな? ごめんね」
(ナンデ、わかったのかな?)
―――こんなとき、心が読めるって便利ですね!
私はくるりと身をひるがえす。もう帰る。絶対に帰ることにした。
「す、すみません! 酔っちゃったみたいで! もう帰ります!」
「送るよ」
「ひっ…! け、結構です!」
兄の手をすり抜け、道端にいたタクシーに乗り込む。「お願いします! 早く出してください!」と変態に遭遇した時に幾度となく吐いたセリフを告げ、タクシーは出発した。
(あぁ、よかった。逃げ切った)
そう思ったが…
世の中、いや私の『変態ホイホイ』体質は、そんなに甘くはなかった…。
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