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「じゃあ、俺は失礼するね」
そう言って、そっと真さんは元来た方に歩いていく。
社長は私の方をまっすぐ見ると、
「…ちゃんと両方で伝えたいから、僕を見て」
という。
そして少し恥ずかしそうに笑うと、
「やっぱり、どうやっても、僕は菜々が好きみたい」
(菜々と住んでた時からずっと、他の女の子とそういう気が起きないんだ)
と言った。
―――え?
「菜々?」
「うそつき! まだ心で嘘つくんですか!」
私は思わず言っていた。
「え? えぇ? どうして? 嘘じゃないよ?」
「だって、一緒に住んでた時だって、夜とかホテルとか他の女の人と行ってた! そういうの、私、やっぱり嫌だったんだよぅ…! うあわぁああああああん!」
私が大声で泣く。一年半越しの気持ち。あの時のことが急に、ぶわっと思い出されたのだ。急に泣き出した私を見て、社長は慌てる。
「え? えぇ!? ちょ、ちょっと待って!? ほんとに僕、あれから、何にも、他の子としてないんだよ!? 一年半もの間! 今も菜々以外にそんな気起きないし、これからも起きる気配ない。すごくない!? むしろ喜んでよ!」
「うそだもん! 私と一緒に住んでた時、帝王国ホテル行ったって、心で言った!」
「え…? ……あぁ、あれ、ずっと勘違いしてたの? だから様子が変だったの? ホテルのレストランでスターディンの社長とかと会ってたんだって。あそこスターディンの社長のお気にいりで。会合も、帝王国ホテルのレストランだったでしょ?」
私は本気で爆泣きしているというのに、そんな私を見て、社長は嬉しそうに笑う。
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