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秘密を持つ夫
「悟となら、一緒に居られると思ったの」
ゆっくりと私の肩を押し、その体を離す夫。
「問題を抱えているのは、美穂の方だと思い込んでた」
深い溜息を吐いた途端、大きく肺に空気を取り込んでいるように見えた。
「愛されていないって暴走してたのは、俺も一緒だったんだね」
幾度目か分からない涙を流し始めた。
愛とか好きとか、正直言って実感が無いのは確かだ。だけど、四六時中、一緒にいても気を遣わない相手とは結婚に向いていると聞いたから、悟となら大丈夫だろうと思って、踏み切った。そのことを伝えたことはなかったかもしれない。
「しつこいようだけど、最近よく泣いてる。大丈夫なの?」
笑うことはあっても感情的に泣いたりする人ではなかったはずだ。
涙の粒を拭っている私の手を握りしめて、頬を擦り寄せる。
「俺、俺ね」
顔をぐしゃくじゃにして、まるでブサカワなパグのぬいぐるみみたいになってしまっている。不思議と、相手が我を失っていると、自分は冷静になるものだ。
「先月から週一回、仕事帰りに診療内科にかかってるんだ」
幸せにしたかったのに、と膝から崩れ落ちるから、抱きとめた。
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