優しすぎる夫

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優しすぎる夫

「美穂、おはよう」 「まだ寝惚けてる?」 「朝ご飯できてるから、温かいうちに食べて」  うちの夫はよくできている。家事にやる気のない妻に文句も言わず、毎日せっせと尽くしている。 「やだ。起きない」  私はそんな夫が嫌だ。悟という立派な名前があるが、ここ半年は呼んですらいない。 「えー、そんなぁ。せっかく今日のお味噌汁は出汁からとったのにー」 「うるさい」 「さとるぅ、だいすきーって言ってくれたら許してあげるよ」 「だいきらい」 「かなしいよー、おれー」  けらけら笑いながらスーツに着替えている。勝手に仕事に行ってくれる。 「じゃあ、起きたら食べてね、行ってきます」  布団に隠れた私の額を露わにして、唇をつける。どういうことだろうか、愛し合っている夫婦ごっこなのか。  遠くでドアに鍵がかけられる音がした。私は休日である。いつまで寝ていたって良いのだ。  嫌いだ。あの男。  私のことをなにも知らないくせに、好きだの、愛しているだの。  私のことなんか好きになる人はこの世にはいない。私が私のことを嫌いなのだから、無条件で私が良いだなんて思う奴がいるわけがない。  嫌いだ。
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