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私と対峙する夫
「私のことを好きだなんていう奇特な人間はあなたしかいない!だから、誰彼構わずこんなことになったりしない」
悟以外に私を抱いた人なんてこの世にいないんだから。
「じゃあ、他に美穂のこと好きだって、愛してるって言ってくる人が現れないと思ってるの?」
怒気を含んだままの声音で私に問う。
「そんなのいない」
「どうして言い切れるの」
急に哀しそうな顔になり、再び私に近づいてきた。
「あなただって、私のことを愛してないじゃない」
夫の口から、声にならない声が漏れた後、嗚咽と交じりながら言葉が紡がれた。近頃、スイッチが入りやすくなっている。
「愛されていないって思うのは、何でなの。俺、言葉にしてるつもりだけど」
「嘘の言葉じゃ意味がない」
「嘘なんかじゃないよ。綺麗だよとか可愛いよって言い過ぎかもしれないけど、本当に思ってて、伝えずにはいられないから言ってるんだよ」
「私のことなんか好きなわけない」
「"なんか"とか言うなっ!!!」
ソファの上で寝そべっていたクッションを乱暴に掴み、部屋の隅に投げつけた。大きな声とは対照的に、少しも音がしなかった。
「根拠ないじゃん。俺が愛してないなんて決めつけるな」
目を真っ赤にして、私のことを睨みつける。
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