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理解する夫
「美穂は自分の感情を否定されたらどう思う」
夫は自分の頭に手を置き、目を伏せて、私とじゃなく、自身に語って聞かせるような言い方に変わった。
悟本人が、 混乱しているだろうことは、私の気持ちを落ち着かせていった。
「そうか。俺にとっての、妻を愛しているは、美穂にとっての、私のことなんて嫌いでしょ、なのか」
「え?」
「何よりも大切にしたい気持ち。自分を形作る大きな感情が、美穂にとっては、それなのかな」
もはや私になんて聞いていない。私との向き合い方を考えている彼を目の当たりにするのは初めてだった。
「自分を嫌うことで自分を守ってるのかな」
久しぶりに目があった瞬間は、膨大な時間が過ぎ去ったように感じた。快い朝のリビングでの僅かなひと時であるはずなのに、地球が何周も自転したような気がした。
彼の目は澄んだ白さを取り戻して、真っ黒な瞳が光を反射している。私はこの目が好きだったはずだ。
「自分の好きなものさえ、嫌いになるの」
「毎日、一緒にご飯食べて、寝て、それが、それが」
再び子どもが泣くように話している。
「大事なのは言葉だけじゃなくて、実際に起きてることだよな」
私との距離が0になったら、いつもみたいに熱いくらいの腕で抱きしめられた。
私も私で夫の体に体重を預けて、背中に手をまわす。
自分の気持ちを大事にするなら、私は、この人となら暮らしていけると思って、結婚したんだった。
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