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私が強く抱きしめれば抱きしめるほど、泣き声が大きくなっていくように思えた。
「なんで黙ってたの。いつもどうでも良いようなことばっかり話してくるくせに、そんな大事なこと」
息を吸ってばかりで、まともに呼吸ができていないことくらい、私にも分かった。
「落ち着いて。ゆっくり息吐いてみて」
顔を真っ赤にして、私の腕にしがみついてくる。夫はどうなってしまうんだろうか。今朝の夢が現実になるかもしれないと思うと、今までで一番恐ろしいことのような気がした。
私の着ている服を掴んでいる手が大きく震えたと思ったら、そのまま悟は気を失ってしまった。
「悟! やだ! 悟!」
どうしたらいいの、と何度叫んだか分からない。
自分でもどう行動したのか分からないまま、気づいたら病室のベッドで寝ている夫を目の前にしていた。
医師が近づいてきて、すぐ良くなることを教えてくれた。
「私なんてあなた以外に話し相手がいないから、何でも喋っちゃうのに」
返事をするわけがない寝顔に向かって愚痴を言ってみる。
「困った時は助けてくれなきゃ、私、何にもしないんだから」
ご飯だって、悟が用意してくれなきゃ食べないで何日でも過ごしちゃうんだから。
夫が私のことを知らないんじゃなくて、私が夫のことを知らないのかもしれない。
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