秘密を持つ夫

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 頭からじんわりと暖かくなっていく感じがして、いつまでも眼を閉じていたかった。  撫でられている。こんな熱い手で私を触るのは彼しかいない。  え? その人って誰だっけ。  そうだ、悟だ。  悟、今日はお仕事じゃないの。  随分、怖い夢を見たな。  鬱陶しい相手でも、いきなりいなくなられたら困る。  いなくなる? どういうこと? 「あ! 悟!!」 「うわぁぁ! びっくりしたぁ」  寝起き悪すぎでしょ、といつものスカした笑いを見せている。 「死んじゃったのかと思った」 「俺も死ぬかと思った」  笑い事じゃない。 「あーあ。泣かないで」 「命令するな」 「はいはい」  泣いている私の頬にキスをする。 「人が来たら嫌」 「来なかったら良いの?」  幼子に問いかけるようにするから、まるで子どもになったみたいな気分になる。 「冷静に考えたらあれで死ぬわけないけど、美穂の腕の中で人生終われたら幸せかなって思っちゃった」 「だめ」 「美穂を置いていくわけにはいかないね」  きっと出てくるはずのないご飯を待ち続ける忠犬になるからって、くすくすと笑う。 「そういうとこは無くなってもいい」 「俺、本当はSなの知らないの?」  私に気づかれないようにいなくなる人なのであれば、目の前で苦しんでいるうちは、ここにいるってことであると考えた。  私たち夫婦の愛の形は、どんどん歪になっていく。
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