在宅する夫

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在宅する夫

 世の中は新型ウイルスが流行し、出社したくてもできない状況となった。  先日倒れたばかりの夫は、外でも倒れたらどうしよう、美穂の腕の中で死ねなかったらどうしよう、と不安を募らせ、外出するのを極端に嫌うようになった。  アクティブな人で休日は私を連れ出して、やたらと外で動きたがっていたのに。  そんな折に、こんな非常事態である。  悟は、俺に神が味方した、と派手に喜んだ。 「在宅でもきちんと仕事モードなんて、美穂はやっぱり真面目だね」 「それしか取り柄ないもん」 「そんなことないけど、真面目なのは、魅力的なところの一つだよ」 「ありがとうって言いたいところだけど、今、仕事中」 「そうだね」  誰も見てない、聞いてない、を良いことにとても浮かれている。  リビングで斜め向かいに座りながら、業務を遂行する。  この期間が長ければ長いほど良いと思った。悟の病んだ心が癒えるには途方もない時間が必要であると思われる。  むしろ、どんどん悪化しているような気がしないでもない。 「今の会社に入って良かった」 「どうしてって聞いて欲しいんでしょ」 「美穂に出会えたからだよ」  この期に及んで、夫が私を欺いているとは思えない。  とても悲惨な形で、私は愛されていることに気づいてしまった。
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