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妻離れしてみる夫
結婚前は同じ部署だった私たちであるが、結婚後は人事部に計らってもらって、私だけ異動させてもらった。
それを知った時の夫の顔は忘れられない。これからも毎日一緒に帰ったりしようと思ってたのにってしばらく落ち込んでいた。今思えば、一言くらいその考えがあることを伝えるべきだった。
いわゆる第一波が明け、分散的に出社することになった。
我が家からは、本日、まずは私が出社することになる。
「美穂、行っちゃうんだね」
「大丈夫?額からすっごい汗が出てるけど」
平熱は高いが汗っかきではないはずの悟が、尋常ではない回数で汗を拭っている。
「一人で家に居られるか自信がなくなっちゃって」
乾いた笑いを浮かべて、気丈に振る舞ってはいるが、目の前にいる人をここまで臆病にしてしまったのは自分自身であると、深く心が痛んだ。
「昼休みになったら、動画でかけてきなよ」
「そっか、美穂が帰ってくるまで待たなくていいんだ」
心底ほっとしたように椅子の背もたれに体を預けている。
「帰り道は、通話繋げてても良い? 電車の中ではさすがに喋れないだろうけど」
以前の私なら、気持ち悪いと一蹴したであろうが、こんな切実な状況でそれは言えない。
「分かった。良い子にして待ってるんだよ。というか、あなたも仕事ちゃんとするのよ!」
「営業部が在宅勤務って為す術なしだよ」
ほっとしたような笑顔が見れたから、安心して外出できる。
今まで立場が逆だったと思うと、ただ卑屈になっていた私より、夫の方が数十倍も辛かっただろうと察する。
ごめんね、悟。
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