抱きしめられる夫

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抱きしめられる夫

 急に寒気を感じて目覚めると、夫の体が離れていた。私に馬乗りになって、こっちを見下ろしている。室内は薄暗くて表情はよく分からないけれど、きっとまだ機嫌は良くないだろう。 そう思うと、やはりかける言葉が無い。  スーツが皺になるのが嫌で帰宅するとすぐに着替えるのに、今日は私なんかにかまっていたからそのまんま。  私を見つめたままであろう、実際はよく分からないけれど、ゆっくりと脱ぎ始める。まるで見せつけるようで腹が立つ。私と違ってジム通いもしてて、若い頃からスポーツもしてて鍛えていて、細いけれど締まっている。  腹が立つ。  上半身を脱ぎ終えると、再び私に覆いかぶさってきた。  首から順に唇を触れられるけど、こういう流れは嫌じゃ無い。  欲求をぶつけられるだけという展開は理解しやすい。普段、甘ったるいムードを作られて、可愛いだなんだ、綺麗だなんだって嘘をつかれて抱こうとするより、まだ好ましい。  いつの間にか頭を悟の腕の付け根に乗っけられていた。  少し寂しそうな表情でこちらを見ている。 「最近、ずっとこうだね」  私の前髪を指先で何度も何度も直そうとする。癖でもついてしまったのか。 「気持ち良かったら精神的にも落ち着くだろうしと思ってるし、動いて体が暖まるのも良いからさ」  私の為だとでも言いたいの。いらない、そういうの。 「まだ無理やりな方がいい」  彼の目が少し赤みを帯びてきた。  優しい夫を演じたいのに、阻止されるから悔しいんでしょ。 「分かってもらえないかもしれないけど、大切にしたいんだよ」  声を震わせながら真っ直ぐに私に向かってきた。  いつも通り返事をしない。好きにすれば良い。  子どもみたいに声を漏らして泣き始める。最近こんな調子だ。  悟はこんなだっただろうか。少し心配になる。  でも、自業自得だ。愛してもいない女に好きだなんだとほざいて側にいるからだ。無理が祟るのもしょうがない。  いなくなっちゃえ。  そう、心の中で呟きながら、夫を抱き寄せた。
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