私に似てきた夫

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私に似てきた夫

 気持ちに不安を感じる時は、重みを感じる方が安心するんだと夫が話していた。  ある時期から、心理学の本をよく読んで勉強するようになっていた。  具体的には、分厚い布団を被ると良いんだってと言いながら、私の上に覆いかぶさってくるようになった。  決まって、私が悟に対して恐怖を感じている時だ。恐ろしいのに、暖かく抱きしめられて、程よく体重を移されると、不思議と寝入ってしまう。 「美穂、俺のこと好き?」  眠れそうだったのに、話しかけられてイライラしてしまう。 「きらい」  それは事実だ。 「俺は美穂のことが好きだよ。ずっとさ、伝わらなくても俺が愛してるんだからその気持ちが大事なんだって、想い続けてた」  力一杯に私のことを抱きしめる。骨が当たって軋むくらいに。 「痛いって、ばか」 「これくらい好きなんだよ。抱き潰したいくらい」 「乱暴なことするなんて、あなたらしくないと思う」  話し辛いけれど、声を振り絞る。 「そうだよ。俺もそう思う。このままもっとおかしくなっちゃうかもな」  元々、精神的に強いタイプの人だから、いつもふざけたように笑ってて鼻に付くとすら思っていたのに、近頃は、まるで私みたいになっている。 「もしかして、自分のことが嫌いになったの」  私の顔を見ながら、眉根を寄せて、とても苦しそうな表情をした。 「嫌いではないよ。美穂を好きである自分が好きだし、夫の座を独占しているなんて人生勝ってるなって」  やっぱり、自分の心に嘘をつくからだよ。 「こんな風にしたのは美穂なんだよ。責任とって」  子どもみたいに泣き出した夫をどうすれば良いのか分からず、とりあえずいつも彼がしてくれるように胸に抱き寄せた。  一緒にいすぎたのか、そろそろ解放してあげなくてはいけない。
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