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私はひとりじゃない
いつも通り残業をして今日も疲れたなと思いながらコンビニに寄る。今からご飯を作るのも何だかしんどい。どうせ一人だからとお弁当を買って帰路に着く。
アパートの前まで来てふと家の窓を見ればそこには明かりが灯っていた。
「まさか……」
私は慌てて家まで駆けていき、ドアを開ける。
「あ、おかえり一」
そう言って呑気に出てきたのは私の彼だった。
「なんで? 来てたの?」
「うん。会いたかったし」
そう言うと私に向かってクシャッとした笑顔を作る。彼も忙しいはずなのに私はいつもこの笑顔に救われている。
「今日も遅くまでお疲れ様」
そう言うと彼はぎゅっと私を抱き締める。
「ありがとう。忙しいのにわざわざ来てくれて」
「今日は珍しく早く終わったから」
「来るんだったら言ってよ。ご飯作るのに」
そう言えば彼は食べてきたから大丈夫とソファに座って雑誌を読み始める。
「じゃ、ご飯食べるね」
私はコンビニで買ってきたお弁当をチンする。
「それより大丈夫なの?」
彼の話が唐突なのはいつものことだが、今日はかなり唐突だ。私はお弁当を食べながら何が? と聞く。
「顔がいつもよりお疲れだから大丈夫かな? って思って」
それを言うなら彼もだろう。最近部署が変わったと言っていたし、忙しい日々を過ごしているはずだ。でもここで自分も忙しいのにと言ったら言い合いになるから言わない。
「私は大丈夫だよ」
こう言っておけば間違いはない。
「本当?」
「うん」
そう言えば納得したのかまた雑誌に目を移した。
私はご飯を食べ終えて彼が座っているソファの隣にちょこんと座る。すると彼は私の顔を見てはぁとため息をつく。人の顔を見てため息をつくなんて失礼だ。怒ってやろうと思って彼を見たら眉毛を思いっきり下げて私を見ていた。
「無理してるでしょ?」
「無理? してないって」
「嘘ついても俺には分かるよ」
確かに最近同僚が辞めることになって引き継ぎがあって忙しい。それによって残業も増えた。自分のミスでもないのに謝らないといけないことがあったり、正直何やってるのだろうと思うこともある。振り返ってみればここのところ休んだ気がしない。
自分では何とも思っていなくても勝手に蓄積されていく疲れやストレス。彼には全て分かってしまうらしい。
「ちょっと忙しいだけだよ。大丈夫だから」
「そうやっていつも強がる癖、辞めた方がいいよ。つらい時はつらいって言いなよ」
「……え?」
「じゃないと体がもたないよ……」
真剣に彼に言われて気がついた。私は今まで人に頼るということをあまりしてこなかった。
「たまには俺のこと頼ってよ。俺が出来ることはするし、ずっとそばにいる。いつだって俺は味方だから」
肩の荷がすっと降りたようなそんな感じがした。
私が思いっきり彼に抱きつくと彼の大きな手が私の頭を優しく撫でる。
「ありがとう」
私はひとりじゃない。こんなにも心配してくれてこんなにも頼れる人がいるから。
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