七夕の夜に

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七夕の夜に

 カレンダーを見てふと気がつく。今日は7月7日、七夕だ。織姫と彦星が一年に一度会えるこの日。  ロマンチックっていったらロマンチックなんだろうけど私には正直関係ない。土砂降りの雨を窓から見つめながら思う。この様子だと今年は会えなさそうだな。  もしも、私が彼と一年に一度しか会えなかったらどうなるのだろう? 普段彼になかなか素直になれない私だけどさすがに一年に一度しか会えなかったら私も彼に優しくするのだろうか? ……やっぱり変わらず素直にならないかも。  結局そのままかななんて想像していたらただいまと大きな声が玄関から聞こえる。彼が帰って来たようだ。  おかえりとリビングから言えば今日もお迎えなしなのと口を尖らせてテケテケと歩いてきた。  お迎えが無いのはいつものことだ。でもそのやりとりもめんどくさいから無視していたらリビングまで来た彼がソファに座っていた私にガバッと抱きつく。 「今日は早かったんだね」 「俺の可愛い織姫が待ってるから早く仕事終わらしてきた」 「え、何言ってんの」 「もう相変わらず冷たいなぁ」  冷たいのなんて今に始まったことじゃない。至って普通、通常運転だ。 「私が織姫だったら貴方が彦星?」 「もちろん」  彼はそう言ってニコニコしている。 「それだったら一年に一度しか会えなくなるけど大丈夫そ?」  そう言えばさっきまでニコニコしてたのに急に泣きそうな顔をするから面白い。 「もしも私と一年に一度しか会えなかったらどうする?」 「無理!絶対耐えられない!」 「全く、大袈裟なんだから。そんなこと言っといて会えなかったら私のことなんて忘れるんでしょ?」  そう言って後ろを振り向けばやけに真剣な顔をした彼と視線がぶつかる。 「たとえ離れてても俺はずっとお前の事思ってるから」 「え?」 「10年でも20年でももっともっと俺はずっと好きでいる自信あるよ」  彼が言ったらありえないことも実現しそうで不思議だ。 「私は分からないな」  正直そこまで私が彼のことを好きでいるかなんて分からない。 「でも……ずっと好きでいてくれたらずっと好きなんだろうなと思う」 「それで俺は十分だよ」 「本当に単純」 「ずっと好きでいるからずっと好きでいてね?」  そう言って彼は私を強く抱き締める。なんて我儘な彦星だこと。 「短冊にでも書いて祈っとけば?」 「そんなことしなくても叶う。叶えてくれるでしょ?」  そう信じてるからさと言って私の頬をすっと撫でた。 「もう……やめて」 「やっぱり可愛いなぁ、俺の織姫は」  織姫と彦星は会えたのだろうか?  たとえ会えなかったとしても心は通じ合っているはず。  私達みたいに。
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