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狐に化かされたような一夜が明け、家に帰るとほたるの姿は無かった。 昨日着ていた手術着はゴミ箱に小さく畳まれ捨ててあり、テーブルの上にはあの財布が カードだけ抜き取って置いてあった。 仙寺の財布は駅前の交番に届けられていた。 届けた人によると大勢の男に女の子が強引に連れていかれ、その際に落としたという。 誘拐かと思い、慌てて届けてくれたため中身も無事だった。 学校帰りにあの塀に囲まれた施設に行ってみた。 やはり人の気配はなく、 塀の上の監視カメラは外側ではなく数多くある物全てが敷地内を向いていた。 まるで刑務所みたいだ 思わずそう考えながら帰路につく。 あの坂道も通った。 初めて乗ったという自転車に怯えながら、 顔を上げた彼女の声。   一体 どんな顔をしていたのか      「もっと早く」  そう言った顔は笑っていたのか もう知ることはないと思いつつ、仙寺はスピードをあげ坂道を下って行った。 兄のリクエストである 肉じゃが の材料を買って家に帰ると玄関先で祖父と兄が車に 乗り込んでいた。 「おお、仙 今帰ったか」 昨夜一度死んでしまった老人の割に がっしりとした体格の祖父は言った。 「今夜の新幹線で帰ると」 「はぁ?」 「お前達の顔も見たからな、早く帰らんと ばあさんが心配するだろ」 「ばぁちゃんとっくに死んでんじゃん。 ついにボケたか」 思わず口に出すと大きな拳で頭を小突かれた。 「馬鹿野郎、死んだからなんだ。 ばあさんと俺は何時でも一緒だ」 「そうですか、そいつは悪うございました」 「なんだその口の生き方は」 もう一発。今度は少し強めだった。 痛みより懐かしさに笑みがこぼれる。 「殴られて笑うやつがおるか」 「痛ぇって、もういいだろ。時間遅れるぞ」 そう言うと祖父は いかんいかん と大人しく車のドアを閉めた。 「気ぃつけてな」 「お前も達者でな」 死に損ないがよく言う なんて苦笑いをする。 「祠は?」 「もう会った。部屋にいる」 硯がそう返すと祖父は よいよい と笑っていた。車を出そうと硯がハンドルを握る。 「そうだ、仙 お前に伝言があった」 いかんいかん と慌てて祖父は仙寺を見た 「は?誰から」 「チャーハン旨かったと」 祖父の話だと 昨夜、病室で目を覚ました時 仙寺と同じ歳程の少女が立っていた。 名乗ることもなくただ静かに、仙寺に伝えてとそれだけ伝えたという。 最後に祖父は 女の子を泣かすとは けしからんと少し怒って駅へと向かった。 あいつ病室に来てたのか でもなんで、 部屋の番号も名前もあいつには言ってないのに... どんなに考えても分からない。 本人を問いただしたくても居やしない。 少し腹立たしかった。 泣いてたって何だよ
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