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それから二週間、何事もなく平和な日々。 「この財布って飯代と服代って事なのかもね」 ほたるが置いていった財布を指差し、テーブル席で祠はお茶を飲んでいる。 背中越しにそれを聞いて 「お前、勝手に中身抜いたりすんなよ」 食後の食器を洗いながら仙寺は言った。 「しないよ。..でも取りに来るかな」 一瞬、手が止まる。   来ないだろうな  そう思うとなんでか無性に腹が立って 「さあな」 「どこ行っちゃったんだろうね」 「さあな」 もう一度そう言った。 突然サイレンのようなインターホンが鳴り響いて、何事かと玄関に向かった。 扉のはめこまれた曇りガラスには女らしき影。 頭に浮かんだ少女。 勢いよく扉を開けた。 矢継ぎ早にインターホンを鳴らしていた少女は少し驚きながら 「ここ、舞の家だよね」 「は?」 「ちょっと来て」 訳も分からぬまま少女に引っ張られ玄関から引きずり出される。 「いいから早く!」 「ちょっと待て、誰だ 舞って」 そしてお前も誰だ。 近所の女子高の制服、肩までの髪に150cm程の小柄な少女。 全く知らない女子。 「手袋した髪の長い子よ! 立ち話してる暇無いの、早く行かないと何されるか」 怒鳴りながらぐいぐい腕を引っ張る。 それを振り払うと自転車を引っ張り出した。 「どこに行けって?」 早速股がりペダルに足をかけると少女は慌てて荷台に飛び乗った。 少女の名は 長谷川(はせがわ)麻実(あさみ)   学校帰りに絡まれたところを同い年程の女子に助けられたのだと言う。 「うち、パパが実業家でさ、結構有名だからよく絡まれることもあるわけ。 大抵逃げきるんだけどその時は人数多くて さすがに無理でさ」 後ろから道案内しながら麻実が続ける。 「鞄は捕られるわ、同じ女子だからって3人で蹴ること無いよね。 連れの男子は止めるどころか見て見ぬふりしてさ、近所のも知らんぷり。 そしたらあの子が立ち止まってくれたわけ。 たった一人、やめろって言ってくれた」 「やめろ」 その声に顔を上げると目の前には紙袋片手に立っている少女。髪を鷲掴みにしてコンクリートの塀に押し付けていた手が離れた。 「はぁ?!関係無いじゃん」 一人の女子が振り向いてそう言うと、今までスマホを弄っていた男子は怠そうに立ち上がった。 「...何?ウザいよ、お前」 そう言い睨んでいる。 少女はそれに臆することなく、目の前に歩み寄った男子を無視した。 「聞いてんのかよ」 怒鳴りながら男子は少女の胸ぐらを掴もうとして手を伸ばした。が、その掌は何も触れることなく、男子の体は宙を舞った。 背中に激しい痛み、天地が一瞬でひっくり返った。 何が起こったのかわからず仰向けで倒れている男子は呆然とし、それを見ていた女子達も麻実を押さえつけていた手から力が抜けた。 投げ飛ばされた男子は我に返ると、こちらに歩みを進める少女に背後から大きく振りかぶった。 それを素早く避け、よろめいた背中を押すと 「ウザい」と言った女子に倒れ込んだ。 壁に頭をぶつけたのか女子は悲鳴を上げた。 麻実の両手を掴んで抑えていた二人もたじろいで顔を見合わせ、頭を押さえる女子に駆け寄る。 「もういいでしょ、行こ」 そう声をかけ、いそいそとその場を離れようとする。 倒れ込んで恥をかいてしまった男子は決まり悪そうに舌打ちして、帰り際地べたに置いてあった紙袋を蹴り飛ばした。
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