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ネオンの隙間を縫うように腕を引かれ走る。 暫く走って目の前の女子校生の息があがっているのに気がつくと、我に返り立ち止まった。 「放せ」 振り払うといとも容易く手は外れた。 「何考えてんの、自分が何してるかわかってんの」 麻実は膝に手をついて体全身で息を整えている。 「余計なことするな!関係無いだろ」 言い捨てると頬に麻実の平手が飛んだ。 「関係無いわよ!」 見ると麻実の目には大粒の涙。 「関係無いけど..助けてくれたじゃない」 「....え?」 訳がわからず聞き返すと麻実はじっと見つめていた。 「あんたが助けたつもりなくても、私は助けてもらったの。恩着せがましいと思うかもしれないけど、私は助けたいって思ったの!」 麻実は 悪い? と白い歯を見せ笑った。 笑顔とは対照に麻実の手は震えていたのに。 「さぁて、彼は無事逃げられたかなっ」 きょろきょろとその手を額にかざし辺りを見回して麻実は言った。  彼 の言葉に先程の青年を思い出す。 「どうして、仙寺が」 「あ、仙寺って言うんだ。名前聞くの忘れてた。」 「え?」 「ほら、紙袋持って家に入って行ったじゃない?私てっきりあの家の人かと思って助け求めちゃって」 そう言われこの女子高生が絡まれていた子だと気づく。 「あの時の..」 「やっと思い出した? 麻実っていうの、私の名前。 ずっとお礼言いたくて探してたんだよ」 麻実は少し寂しそうに笑った。 「あ~..そういえばあの紙袋何だったの?玄関先まで持っていって引き返して」 「....服を返しに」 戸惑いながら答えた。 「服?あっ、ごめん。汚れちゃってた?」 そうではない と少女は頭を振ると、静かに答えた。 「返すか...迷ってた。 会わない方が早く忘れられる。」 そう言うと、彼女は顔を背けた。 なんでか無性に悲しくなって、麻実は少女に抱きついた。 慌てる少女に 馬鹿野郎 と言った。 「本当馬鹿野郎だよな」 背後から声がして二人が振り向くと見事に左頬が赤く腫れ上がっている仙寺が自転車を引いて立っていた。 「いやぁ、見事に腫れたね」 「喜んでんじゃねぇよ。大変だったんだぞ」 「捨て駒ご苦労様でした。じゃあ私行くからあとよろしく」 「は?」 片手をぴしっと顔の前で上げ、笑顔でそう言うと、麻実は何事も無かったように背を向ける。 「パパとご飯だって言ったでしょ。 また今度遊びに行くから」 二人を残しさっさと麻実は行ってしまった。 夜も深くなって、今日が金曜日ということもあり人通りも増してきた。 じんじん痛む頬。 頭もぶつけていたのかズキズキと痛む。 言いたいことはいっぱいある。 怒鳴りつけたい気すらある。 それでも口から出たのは大きな溜め息。 「...痛くないか?」 罰の悪そうに顔を背けているキャバ嬢の頬を見る。同じく赤く腫れて、思わず唇を噛んでしまったのか口端に血が滲んでいる。 「...お前もな」 相変わらず可愛げのない返事に笑いが込み上げてきた。腹を抑え、思わず声が大きくなるのを訝しげに見つめる少女を見返した。 泥だらけのドレス、崩れた髪型、ふてくされた顔に、両腕を胸元で抱いている。 可愛げの欠片もない。 「それじゃあ接客は無理だよな」 「はぁ?!」 一通り笑うと自転車に股がり少女に言う。 「帰るか」 「...私は」 明らかに表情が曇り言葉を濁す少女に あの日と同じことをもう一度言った。 「いいから乗れよ、裸足じゃなくても その姿じゃ目立つだろ」 そう言うと、少女は自分の姿を見直して しぶしぶ自転車に乗った。 「落ちんなよ」 仙寺は勢いよくペダルを漕ぎだした。
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