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「..で、二人仲良く顔腫らしてきたのか」 成り行きを聞いて、呆れているのか 怒っているのか 硯が言った。 「病人の次はキャバ嬢誘拐して、遂に頭おかしくなったのかと思ったよ」 ソファに座り参考書とにらめっこしながら祠が言った。 テーブルで硯と向かい合わせで座っている二人の頬には湿布。流石にドレス姿では話も出来ないと少女の方は入浴を済ませ、祠の服を着ていた。 深夜だというのに帰ってきた兄は飯も食わずにコーヒーを一口飲んでは大きな溜め息をついた。 「それで、これからどうするんだ」 「とりあえず今晩泊めてもいいだろ」 「お前には聞いてない」 ぴしゃり と言われ、仙寺は押し黙った。 何気にめちゃくちゃ怒ってるなぁ... と仙寺と祠は頭の中で苦笑いする。 少女の方はというと、 テーブルで隠すように置いた膝の上で、黒い手袋をつけた両手を握りしめ俯いたままだ。        はぁーっ  と、再び硯の溜め息がリビングに響く。 沈黙に耐えかねて、祠はイヤホンをつけ音楽を聞きながら勉強を始めた。 仙寺はというと、それとなく兄のコーヒーのおかわりを入れに台所へと立ち上がる。 「ちゃんと話さないと分からないだろう」 「....。」 黙り続ける少女に硯は続ける。 「一人で生きていくには若すぎるんだよ。 どう見ても未成年だし、学校も通ってないんじゃない? 身元保証する人もいない、学歴もないじゃ まともな仕事出来ないだろう。 その手じゃなおのこと」 「....。」 言い返すことも出来ず少女はきつく口を閉ざす。 「警察に連絡してもいいんだよ」 「おい、何もそんな言い方」 「お前は黙ってろ」 強い口調に仙寺が割って入ったが兄はとりあわなかった。ただ、じっと少女を見つめる。 何も言わす、ただ両手を握りしめ、強く唇を噛み締める     彼女       「八城(やしろ)(ほのか)ちゃん」 ようやく上げた顔からは困惑と恐怖の色が窺えた。 「....知ってたの」 硯が初めて聞いた声は怯えていた。 「君の親御さんをね」 「..そう…」 小さくそう言うと、仄はまた俯いてしまった。 「病院で、何度か見かけてね。 ずっと不思議だったんだよ、医者だって患者を救うために最善の手を尽くしてる。 それでも完璧じゃない。 どうやったって救えないこともある」 この間の祖父のように と小さく付け加えた。 「だが、その人を見た日は必ず誰かが目を覚ました。 手の尽くしようがない患者ばかりだ。奇跡なんてもんで片付けられるものじゃない。 そして」 硯はテーブルに肘をつくと両手を重ねた。 「祖父が一度亡くなったあの日、君を見かけた。それで思い出した」 硯はじっと仄の反応を見ていたが、金縛りにあっているかのように身動きひとつしない。 「何言ってんだ?こいつが何かしたからじいさん目を覚ましたってのか?」 仙寺が堪らず口を出した。 仄は相変わらず黙ったままで兄に答えを求める。 やれやれ と硯は弟にコーヒーを持って来させると話を続けた。 「都市伝説だよ」 「....はぁ?」 「金さえあれば永遠に生きていけるってな。命を移植出来る人間がいるんだとさ」
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