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駅前から徒歩30分位だろうか
住宅地であるにも関わらず人まだらな一画区。目の前には高さ2mほどの塀がずっしりと建っている。
住所だとこの辺なんだけどな..
辺りを見回すも長い塀が続くばかりで住宅らしき表札が見当たらない。
何かの施設か、工場か..入り口があれば聞けもするがそれも見当たらない。
途方に暮れていると、何やら塀の向こうが騒がしくなった。
人の怒鳴り声と大勢の走り回っているような足音。
良かった人がいる。
塀の向こう側へボールを投げ込むように声をかけようと上を見て、それを遮られた。
急に頭上が影を帯び、声が出なかった。
相手も同じらしく、目を見開き口元が動いたが声にならなかった。
━━━塀の上から人が降ってきたのである。
思わず自転車から手を離し、落下してきた人影の腹部に手を回し支えることに成功した。
よく見ると落ちてきた人影は探していたあの少女らしかった。
本日二度目の転倒に自転車が悲鳴を上げる。
良かった、俺の財布。
安堵して、声をかけようと口を開くのもつかの間。少女は自転車も俺も全く気に留めること無く、また走りだし路地裏へと入っていった。
またもや呆然としてしまうと背後から男の声。
「今、女が逃げてこなかったか」
駅前でも見かけた格好の男が息を切らしながら走ってくる。
「あっち行きましたけど」
指差すと礼を言うでもなく耳元に手をあて
ぶつぶつと何か言いながら駆け抜けていった。
とりあえず、自転車を起こしながら男の姿が見えなくなるのを確認すると少女が入っていった路地裏を覗き込む。
「行ったみたいだぞ」
行き止まりに自動販売機と電柱だけが建っている。その物陰から様子を伺うように少女の片目が出てきた。
辺りに耳を傾けながら少女は姿を現し、自分の横を通りすぎようと歩みを早めた。
「ちょい待ち」
少女の右手首を掴んでそれを止める。
返せよ 俺の財布
そう言おうと口を開いた瞬間、少女は勢いよく手を振り払い
「触るな!」
強い拒絶。
まるで痴漢にでも間違われたみたいだ。
腹が立つよりなぜだろう、純粋にショックを受けた。
「何..だよ。手首掴んだだけだろ」
「死にたくなかったらわたしに触るな!」
もう一度、強い口調に怒鳴られ立場か無い。
「....悪かったな」
ふてくされたように出た言葉。
それでも謝ったのは少女が耐えられない程の痛みを自分が掴んだ手首に感じているように見えたからだ。
それほど力もいれてなかったが掴まれた手首を仙寺の視線から遮えぎるように胸元で抱く。
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