ほたる

4/5
18人が本棚に入れています
本棚に追加
/26ページ
ほたるを家に残し、三人は病院へ急いだ。 両親を事故でなくして以来、兄弟を息子のように可愛がり育ててくれた祖父は、ベットの上で心電図をつけ眠っている。 「しっかりしろよ、じいちゃん」 祠が悲痛に祖父の体を揺すった。 反応は無い。担当した医師によれば駅の トイレに倒れていたところを発見されたが、 すでに心停止していたという。 救命の医者は手術中、研修医しか残っておらず心筋梗塞の恐れから外科医の硯に連絡が 来たのだという。 血栓はすぐに抜けたのか心臓は再び動き出したが、意識が戻らない。 どれくらい倒れていたのか、82歳という高齢もあってもう目を覚ますことは叶わないだろう。 硯は静かに弟達に説明した。 「オレ嫌だよ。じいちゃんと釣り行く約束してんだもん」 「祠」 すぐ隣に立っていた仙寺が弟の肩に手を乗せる。  甲高いブザーの音に心電図のランプが赤に点灯しだした。 慌てて硯がナースコールを押し、心臓マッサージを始める。 「じいちゃんっ、じいちゃん!」 困惑するし、駆け寄ろうとする祠の肩を仙寺が抑えた。 何も言えなかった。 祠みたいに死ぬなって叫びたいのに。 兄貴が言うように歳を考えればしょうがないっていうこともわかってる。 どうすることも出来ない事だって・・・  分かってる。 騒がしく看護婦やら救命医が入ってきても 状況は何も変わらなくて、祠が落ち着くまで硯は心臓マッサージを続けた。 5分経ったか、10分経ったか... 集まっていた職員も部屋を去って、一人ずっとマッサージを続ける硯から汗が雫となって何度も落ちる。 これだけやっても駄目だったんだ もう無理なんだって言ってるようだ。 きっと兄貴は俺と祠が もういい と言う まで、ずっと続けるだろう。 「祠、じいさんに言いたいことねぇのかよ」 ポツンと仙寺は呟いた。 「もう子供(ガキ)じゃねえんだ。 ちゃんと伝えて別れようぜ」 仙寺がそう言い祖父の元へ行くと硯はマッサージを止めた。 玉のような汗を腕で拭うと大きく乱れた呼吸を整える。 「...ありがとな、じいさん」 祖父の顔を今一度じっくりと見る。 昔はよく叱られ、怒鳴りつけられ、恐ろしい顔だっと思った。しかし今横たわるその顔は 皺だらけ、白髪だらけ、威厳はあるが 優しい顔をしていた。
/26ページ

最初のコメントを投稿しよう!