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肩から胸に下げた四角い木箱の中に、えべっさまの木偶人形をしまい込み、村の人々が去ったのを確認したシマオは、ご神木の陰から出てきた。
「……どうやった……ですか」
上目遣いでシマオは高野聖に聞いた。
「弁財天が味方したようやけよ」
「弁財天? ここの神さんが?」
「そうよ。ちょうそのえべっさん見せてよし」
シマオはきょろきょろと周囲に人がいないのを見回してから、そうっと木箱から傀儡人形を取り出した。
「俺は聖やけど……触ってもいいんけ?」
シマオはウンと頷いた。
高野聖は遊行の途中で、道端の亡骸を弔う事もしていた。そんないわゆる “穢れ” にも触れる自分が、神様事に触れても構わないのかと確認したのだった。
「分かった」
頷くシマオを見て、自分の彫った小さな首を懐にしまい、こう言った。
「ほな見ちゃる。こっちよこして」
木偶人形を渡された高野聖は両手で受け取り、自分の前いっぱいに手を離し、距離を開けてから自分の頭をゆっくり動かして、様々な角度から木偶人形の顔を見た。
「……はつるか。おい、えべっさん持っとくれやん」
「う、うん……!」
シマオは渡された木偶人形を、そのままの形で支えるように持った。
高野聖はえべっさんを見て、丁寧に手を合わせ拝んだ。
「これ誰が彫っちゃあ?」
「そこにいる……条介」
高野聖は眉間にしわを寄せた。条介を見てため息をつきながら、自分の着物の中をまさぐり、小刀を取り出した。
「どえらいやりにくいよし……なあ、ちょう手入れても構わんけ?」
「構わん。……今から削るん? 見せてもろてええん?」
条介もシマオのように目が輝き、高野聖のそばににじり寄った。
「このえべっさんは目がよ、もひとつ合わん。合うようにしちゃる」
そう言うと、高野聖はへの字口の口角を上げ、木偶人形の顔に優しく笑いかけた。
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