画像付き完全版【福の神のお使い・2】お社の小さな首。

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 肩から胸に下げた四角い木箱の中に、えべっさまの木偶人形をしまい込み、村の人々が去ったのを確認したシマオは、ご神木の陰から出てきた。 「……どうやった……ですか」  上目遣いでシマオは高野聖に聞いた。 「弁財天が味方したようやけよ」 「弁財天? ここの神さんが?」 「そうよ。ちょうそのえべっさん見せてよし」  シマオはきょろきょろと周囲に人がいないのを見回してから、そうっと木箱から傀儡人形を取り出した。 「俺は(ひじり)やけど……触ってもいいんけ?」  シマオはウンと頷いた。 f01d0bce-4104-419e-ad5d-456c4192170d  高野聖は遊行の途中で、道端の亡骸を弔う事もしていた。そんないわゆる “(けが)れ” にも触れる自分が、神様事(かみさまごと)に触れても構わないのかと確認したのだった。 「分かった」  頷くシマオを見て、自分の彫った小さな首を懐にしまい、こう言った。 「ほな見ちゃる。こっちよこして」 f1f8e869-276a-491d-aea8-7fbdc68ead43  木偶人形を渡された高野聖は両手で受け取り、自分の前いっぱいに手を離し、距離を開けてから自分の頭をゆっくり動かして、様々な角度から木偶人形の顔を見た。 「……はつる(けずる)か。おい、えべっさん持っとくれやん」 「う、うん……!」  シマオは渡された木偶人形を、そのままの形で支えるように持った。  高野聖はえべっさんを見て、丁寧に手を合わせ拝んだ。 「これ誰が彫っちゃあ?」 「そこにいる……条介」  高野聖は眉間にしわを寄せた。条介を見てため息をつきながら、自分の着物の中をまさぐり、小刀を取り出した。 「どえらいやりにくいよし……なあ、ちょう(てえ)入れても構わんけ?」 「構わん。……今から削るん? 見せてもろてええん?」  条介もシマオのように目が輝き、高野聖のそばににじり寄った。 「このえべっさんは目がよ、もひとつ合わん。合うようにしちゃる」  そう言うと、高野聖はへの字口の口角を上げ、木偶人形の顔に優しく笑いかけた。  
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