画像付き完全版【福の神のお使い・2】お社の小さな首。

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「ちょう笑てるけどな、ほいても少しだけ影を加えたら慈悲ちゅうか優しさちゅうか……そんなんが出るよし」  高野聖はその場に腰掛けた。膝で支えた左手に木偶人形の首を持ち、笑顔のまま顔を近づけ、優しくその顔に小刀を当てた。 「ほいて、目が合ったらそれが伝わるんよ。目が合うんがええ」 2848895b-6584-4aee-998a-0bfb67fe4b3c  シマオと条介は息を殺して、その小さな動きを目で追った。 「ほいよ」 「え。もう? 早い!」 「もともとの出来がええけ。なあ?」  そう言いながら条介をちらりと横目で見た。 「えびすかき見せてもうた福分けの礼やけ。俺には村のもんみたいに、渡せる糧もないもんでよ」  すいっと丁寧に渡された木偶人形を受け取ったシマオは、その顔をゆっくりと見た。 「……えべっさま……」  笑顔に見えるように線だけだった目に、ほんの少し目玉のような影が削り出され、そのわずかな影が木偶人形の表情に奥行きを与えていた。 「なんやろ……俺のことだけをえべっさまが見てくれてる……」  シマオは小声で呟くと同時に、その視界がぼやけた。 7c3161d1-cb4c-460d-80ee-1bd6462ecf8a  目玉のようなものが加えられた事で、木偶人形でもちゃんと視線が合う。  これまでは線だけだったので、見る者たちが一方的に見ているだけだった。だけどこれなら、神からの視線を相手に届ける事ができる。  えべっさまが見る人たちの心を掴みに行く……  そう思うと、シマオは胸が高鳴った。 「そのえべっさんは、お前と旅すんのが好きやけ。簡単に新しい首が欲しいとか言わんときな」  その言葉にウンと頷きながら、シマオはより魂が宿った木偶人形を見つめていた。 「……(ひじり)、あんた彫るとき、顔が笑いっぱなしやったな」  条介が思わず聞いた。 「戎社がほうなんかは知らんが、どえらい大社(おおやしろ)では神さんは鏡やって聞いてよ。俺は鏡は見た事ないが、水面に映るようなもんらしいでよ」 「うん」 「ほいだら俺が笑ったら、それが手の中の神さんにも映っちゃるいう事よし」  高野聖は満足げに、シマオを見ていた。 5b1a7d01-916a-4ef1-bb74-c2cbcac233b1
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