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暁しずかに寝覚めして
思えば涙ぞ抑えあえぬ
はかなくこの世を過ぐしても
いつかは浄土へ参るべき
高野聖は突然、今様を唄い出した。
それは仏の存在への想いを流行歌にしたものだった。
「……どういう意味なん……?」
「我では我の値打ちは分からん」
「値打ち……」
「どうせいつかは消える身や。欲もって生きよんのもええよし」
高野聖は俯いて自分に言い聞かせるように呟くと、シマオの目を見て話を続けた。
「お前の舞はな、他の時見とらんから外しとったらあれやけど、我で思とるよりええよ」
「……え?」
「"そこの神さん" も、降ろしよるんちゃうけ。えべっさんだけじゃなくよ。行った先の神さん。その方がより、ようさんの人を救えんのやろよ」
シマオと条介は黙って聞いていた。
「ほいだら、どんな神さんの顔にも見える方がええ。人形の顔は凝らん方がええよし。……あ」
「あ?」
「さっき、俺は鏡の事を話しよったけど……俺が笑ったのが神さんの首に映るんやなくて」
高野聖は力の抜けた笑顔で続けた。
「お前のえべっさんが笑てるけ、俺も笑ったんかもしれんよ」
「え? え? 何?」
「お前のえべっさんはよう笑てるいう事よし。胸張って舞わいてよ! じゃ、そろそろ俺は行こけ」
その時、最初にえびすかきの二人に「キヨメ役をしろ」と伝えた村人がやってきた。
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